社説

[都城で豚熱確認]力合わせ拡大止めたい

2025年4月16日 付

 都城市で野生イノシシ1頭の豚熱(ぶたねつ、CSF)陽性が判明した。昨年6月、佐賀県で九州初の野生イノシシ感染を確認。今年に入って隣の長崎県でも続き、畜産関係者は警戒していた。
 全国では養豚場での感染が広がり、家畜伝染病予防法に基づいて発生農場の全頭が殺処分されるケースが相次ぐ。野生イノシシ由来のウイルスが侵入した可能性を指摘する疫学調査もあり、対策は最重要課題に挙がる。
 「養豚王国」鹿児島県の自治体、生産者、関連企業などは一層の緊張感を共有しなければならない。狩猟やレジャーで山に入り、ウイルスを持ち帰る懸念も周知する必要がある。感染を広げないよう、県民が力を合わせたい。
 豚熱は豚やイノシシがかかる家畜伝染病。以前は「豚コレラ」と呼ばれた。感染力が強く、致死率が高いのが特徴だ。人にはうつらず、仮に感染した豚の肉を食べても人体に影響はない。
 国内では2018年、岐阜県の飼養豚および野生イノシシで26年ぶりに感染が確認された。「撲滅」したと思われていただけに衝撃は大きかった。
 翌19年、政府は豚熱ワクチンの予防接種ができるよう防疫指針を改定。九州7県は、23年に佐賀の養豚場で発生した後、接種推奨地域になった。
 120万頭を飼養し、養豚日本一の産地である鹿児島県も急ぎ体制を整え、現在までの接種率は100%という。ただ、免疫を獲得しない個体も一定数いる。ワクチンだけで十分な対策とは言えない。
 豚熱は今月7日現在、養豚では24都県で計98事例が発生し、約43万頭が殺処分された。イノシシは2日現在で39都府県の8434頭が確認されている。鹿児島県は都城市での野生イノシシ感染を受け、養豚農家に対してウイルス侵入防止対策の徹底を改めて求めるとともに、野生イノシシ対象の検査を増やし監視を強めることにした。
 野生イノシシの免疫獲得に役立つとみられるのが豚熱経口ワクチンだ。早い時期から野外散布している中部地方の県では、効果が継続的に確認されている。養豚場への感染リスクを低減したり、まん延スピードを弱めたりすることが期待できるだろう。
 鹿児島県内の散布候補地は1000カ所を選定済みで、散布を想定した演習もこれから検討する。地元猟友会などの協力も得ながら関係各機関が連携し、迅速な取り組みを進めてほしい。
 22年に山口県で感染確認された野生イノシシのウイルスについて、約500キロ離れた三重県周辺から人を介して運ばれた可能性を、研究機関が発表した。山林に入ったら靴の泥は落として帰るなどの点に注意しよう。またイノシシの死体を見つけたら管轄自治体への連絡が求められている。一人一人の協力で防疫体制を万全にしたい。

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