世界のカトリック教会の頂点に立つローマ教皇フランシスコが88歳で死去した。12年の在位中、平和外交や環境、人権問題に関与し、不祥事が明るみに出た教会の改革を進めた。
「貧しい人たちのための教会」を掲げ、清貧を重んじ飾らない人柄で弱者に寄り添う姿勢が、13億人超の信者のみならず世界中から支持を集めた。
教皇が示した寛容の精神は、対立と紛争が絶えず、分断が進む世界に向けた重要なメッセージだったと理解できよう。互いの憎しみを増幅させる「壁」をつくるのではなく「橋を築こう」と説いた声に、宗派・宗教や立場を超えて、あらためて耳を傾けたい。
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで生まれ、2013年に中南米から初めて教皇に選出された。
各地の紛争を念頭に「第3次大戦を迎えているような今の世界には和解が必要だ」と強く訴えた。影響力を世界に印象付けたのが、15年の米国とキューバの国交回復だ。54年ぶりの正常化に向け水面下で仲介を果たした。翌年2月には、ロシア正教会の最高位キリル総主教と会談。11世紀に分裂した東西教会の歴史的和解にも踏み出した。
ロシアのウクライナ侵攻に対しては、中立的姿勢にウクライナ側の反発を受けながら一貫して交渉による平和解決を訴えた。パレスチナ自治区ガザの戦闘を巡っても停戦を呼びかけた。だがいずれも実現していないのは残念と言わざるを得ない。トランプ米大統領が進める不法移民の強制送還への批判も届いたとは言いがたい。
核廃絶も自らの声で世界に発信した。19年には被爆地の長崎と広島を訪問し、「核なき世界の実現は可能であり必要不可欠だ」「核兵器は保有することも倫理に反する」と強く訴えた。各国の指導者は真剣に受け止め、具体的な行動に移すべきだ。
カトリック教会を揺るがしたのが聖職者らによる未成年者の性的虐待だ。教皇は最高責任者として非難の矢面に立たされる局面もありながら解決に尽力し、教会の構造改革も進めた。
妊娠中絶や同性愛などについては保守的な立場をとり、改革派を失望させた。ただ教会がタブーとするLGBTQなど性的少数者や離婚には柔軟な見解を示した。教義に厳格な保守派からの強い抵抗に遭ったとされる。21世紀を迎えて価値観が多様化する中、いかに社会の実情に対応するかは教会がこの先も向き合う課題と言えよう。
後継者を決める教皇選挙「コンクラーベ」は5月上旬までに行われる見込みだ。イタリアメディアによると、有力候補には、教皇に近い立場と保守派の双方から名前が挙がる。アフリカやアジアからの教皇誕生を望む声も高まっている。新たな教皇が混迷の深まる世界に与える影響を注視したい。