鹿児島市のマリンポートかごしまと鹿屋市古江町の鹿屋港を結ぶ定期便は、2月の就航からわずか3カ月で運休に追い込まれた。薩摩、大隅の両半島を結ぶ新たな交通手段として定着するには至らなかった。
運航する「なんきゅうドック」(鹿児島市)が狙ったのは、大隅半島から鹿児島市へ移動する住民の足としての需要の発掘だ。マリンポートに寄港するクルーズ船客を大隅半島へ誘導し、活性化につなげようという地域の期待も背負っていた。
片道30分、朝夕1往復ずつで始まったものの、それぞれの港に到着した後、市街地中心部などの目的地に向かうための2次交通が不十分だったのは否めない。なんきゅうは運休期間を2026年4月までとしている。2次交通の欠点を克服して再開を迎えられるかは予断を許さない。
県がマリンポートに浮桟橋を設置した19年以降、なんきゅうは旅行会社とも連携して大隅半島へのツアーを不定期で続けてきた。新型コロナウイルスが落ち着けば、クルーズ寄港も戻ってくると見込み、23年に6000万円をかけて所有船を改修。「鹿児島市へ直接行ける便があれば」という鹿屋市民らの声に後押しされ、60人乗り小型高速船「なんきゅう8号」(18トン、全長20メートル)で、定期運航に踏み切った。
残念ながら天候不良による運休もあり、就航1カ月余りの実績は計35便、乗客延べ52人にとどまった。ゼロの便もあったという。燃料高騰や浮桟橋の使用料支払いもあり、当初からの赤字が改善することはなかった。
「鹿屋港を大隅半島の玄関口に」という思いから実現した航路とはいえ、港からの移動手段が整っていなければ利用しにくい。マリンポートにバス停はなく、最寄りの電停や駅まで歩けば30分以上かかる。日常、観光利用とも利用客は伸び悩んだ。
広い緑地が憩いの場となっているマリンポートは、沖合の埋め立てに反対する声を押し切り、総額267億円を投じて16年に全面開業した。クルーズ船ブームで寄港数が飛躍的に伸びる一方、市中心地から遠く、交通アクセスが手薄だとの指摘は絶えない。
大型客船を見物に行く市民らは、自家用車やタクシーに頼るしかない。特に出港前は、各地の観光地に出かけたクルーズ客のツアーバスが戻るタイミングと重なり、周辺道路の渋滞の一因にもなっている。
施設を十分に活用するためには、バスをはじめ気軽に使える交通手段の確保に行政は本腰を入れるべきではないのか。なんきゅうの鹿屋航路については、計画が甘かったとの見方もあるだろう。ただ、マリンポートの2次交通網の脆弱(ぜいじゃく)さという問題点が改めてあらわになったのは確かだ。