社説

[印パ停戦合意]対話重ね緊張解決を

2025年5月11日 付

 軍事衝突が続いていたインドとパキスタン両政府は10日、即時停戦に合意した。米国が仲介した。領有権を争うカシミール地方でのテロを発端に7日から拡大の一途をたどった核保有国同士の交戦は、いったん収束する見通しとなった。
 一時は「事実上の戦争」とも言われる危険水域に達していた。決断を歓迎したい。ただ火種は残っており、両国の緊張関係が解決に向かうかどうかは不透明だ。両国には対話を重ね、緊張を緩和させてもらいたい。
 テロは4月22日、インド政府の直轄地ジャム・カシミールで起きた。武装した5人前後の男がインド人観光客ら26人を殺害。イスラム教徒でない男性を選別し、銃撃したとされる。
 パキスタンはテロへの関与を否定している。だが、インドは背後にパキスタンがいると断定し、ミサイル空爆に踏み切った。パキスタンも反撃し、応酬が続いていた。
 7日の空爆についてインド国防省は、軍施設は攻撃対象にせず、テロ組織のみを狙ったと強調する。パキスタン側は、モスク(イスラム教礼拝所)や診療所など民間施設が攻撃され、子どもを含む26人が死亡、46人が負傷したと非難した。
 根底にあるのは、ヒンズー教徒が多数派のインドと、イスラム教を国教とするパキスタンとの宗教対立である。融和を訴えたマハトマ・ガンジーの夢はかなわず、両国は1947年、英領から分離独立した。
 その際、イスラム教徒が多いカシミール地方を巡り、互いに領有権を主張。3次にわたる戦争を経て暫定的に実効支配線を定める協定が結ばれ事実上の国境線になったが、その後も軍事衝突を繰り返している。
 2019年にカシミール地方で起きた自爆攻撃では、インドが報復としてパキスタン側のイスラム過激派拠点を空爆、両国の戦闘機が交戦した。仲介役となった第1次トランプ政権時の米国務長官ポンペオ氏は回顧録で核戦争の「寸前だった」と振り返る。今回はそれ以来の軍事衝突だった。
 推計核弾頭数はインド172発、パキスタン170発。パキスタンのシャリフ首相は「最後の血の一滴まで国を守るために戦う」とテレビ演説し、インド外相は、反撃すれば「断固とした対応を取る」と応戦も辞さない構えを見せていた。
 トランプ大統領は10日、「完全かつ即時の停戦に合意した」と自身のソーシャルメディアで誇示した。政権幹部は印パ首脳とそれぞれ対話したと明らかにした。今後も衝突が再燃しないように両国への仲介を続けてほしい。
 印パ双方と良好な関係を築いてきた日本をはじめ、国際社会の働きかけも重要だ。

日間ランキング >