貿易を巡り激しく対立していた米国と中国が、互いに課している関税を双方とも115%引き下げることで合意した。米国の対中追加関税は145%から30%に、中国の対米報復関税は125%から10%になる。
引き下げの一部は90日間の一時的な停止で、貿易協議の枠組みを設けて話し合いを続ける。さらにトランプ大統領は、習近平国家主席との電話会談に意欲を示している。
事実上の禁輸状態になっていた二大経済大国が歩み寄り、世界経済への深刻な打撃がいったん回避されたことを評価したい。ただ今後の交渉が決裂し、対立が再燃する懸念は残る。協議に加え、首脳間で秩序ある国際貿易の在り方を確認し、さらなる緊張緩和につなげるよう求める。
第2次トランプ政権が仕掛けた高関税措置で両国の応酬が激化していた。しかし経済が深刻な危機に陥るのを避けたいのが両国の本音。今回の合意は双方の思惑が一致した結果と言える。
米国が4月に相互関税を導入後、金融市場で一時、株式、通貨、国債が売られる「米国売り」が顕在化した。1~3月期の実質国内総生産(GDP)速報値は年率換算で前期比0.3%減と3年ぶりのマイナス成長に陥った。
景気後退の懸念を背景にトランプ氏は軟化姿勢を見せた。協議前には「中国への関税は80%が妥当と思える」と指摘していたが、さらに引き下げた。高関税への米国民の反発に焦りがあったのではないか。
徹底抗戦の構えを崩さなかった中国も、4月の米国向け輸出が前年同月比21.0%減と急減し、危機感を強めていた。不動産不況も深刻な中、さらなる景気減速を避けるには関税率の大幅引き下げが不可欠だった。
当面の「落としどころ」を見つけた両国だが、中国の巨額な対米黒字をはじめ、根本的な対立は依然変わっていない。非関税障壁などの構造的な問題を、話し合いを通じて解決するべきだ。
トランプ政権は先に英国とも貿易交渉で合意している。米国が輸入車にかける関税を年10万台に限り現行の27.5%から10%に引き下げる一方、英国は、米産農産物の輸入拡大を受け入れるなどの内容だ。
日本政府は二つの合意を先行事例として注視する構え。だが、それぞれ合意の中身や対米貿易の状況が異なり、日米交渉への影響は未知数だ。
日本は一連の高関税策の全廃を求めている。特に重視するのは対米輸出額の3割弱を占める自動車だ。しかしトランプ政権は全ての貿易相手国に対して課す一律10%の関税は維持する姿勢を崩しておらず、米中間の合意も追加関税部分に限られた。政府は、5月中旬以降に集中的に開く対米交渉に、明確な戦略で臨んでもらいたい。