社説

[医療ヘリ事故]離島の命綱 安全運航を

2025年5月16日 付

 民間医療搬送用ヘリコプターが長崎県壱岐島沖で事故を起こし、患者や医師が亡くなった。同県では1カ月以上が経過した今も民間ヘリは運航できず、事故機と同機種の県ドクターヘリも点検のため休止が続く。
 防災ヘリや自衛隊、海保のヘリで代替しているという。離島住民の命綱であるヘリ搬送ができなくなる事態があってはならない。「多くの離島や半島を有する長崎県において命を守るために欠かせない」と知事がヘリの重要性を強調するのは、当然である。
 南北約600キロの県域に離島が点在し、県本土が鹿児島湾で東西に分断される鹿児島も人ごとでない。過疎や高齢化が進み、航空搬送の重要度は増している。安全運航を徹底してほしい。
 4月6日、福岡市への患者搬送のため対馬市を離陸したヘリが消息を絶ち、海上で転覆した状態で見つかった。搭乗者6人のうち、鹿児島育ちの男性医師、高齢の女性患者と付き添いの息子の3人が死亡した。本土で適切な治療を受けられるはずだった患者と家族、地域医療に情熱を傾けた医師の命が失われたことが悔やまれる。
 運輸安全委員会は後部回転翼を制御する部品が破断していたと明らかにした。操縦席のペダルで操作し、機体の方向を制御する役割がある。破断が事故の要因となった可能性がある。
 運航会社(佐賀県)では昨年7月にも別の機体が墜落し乗員2人が死亡している。重大事故が短期間に続発したことは見逃せない。今回は「異変」から捜索開始まで約1時間かかった。海保への連絡が遅れたとされ、対応に問題がなかったか検証を求めたい。
 鹿児島県で活動するドクターヘリや消防防災ヘリは事故機とメーカーが異なり、直接的な影響は出ていない。
 県内では年間にヘリ搬送が1288回あり、うち559回が離島関連である(いずれも2023年度)。鹿児島市立病院と県立大島病院(奄美市)がドクターヘリ各1機を運航。奄美南部3島へは沖縄県のドクターヘリも出動する。県消防防災ヘリや自衛隊、海保のヘリも離島の患者搬送に対応する。
 全国的に珍しいケースだが、民間の米盛病院(鹿児島市)も医療搬送用ヘリを運用する。県ドクターヘリと機体、運航委託先、安全基準は同じだ。
 同病院の場合、ドクターヘリの重複要請時に「補完ヘリ」として年200回前後搬送するほか、民間ヘリとしても活動する。例えば、生命の危険に切迫せずドクターヘリ対象ではないが、医師のいない離島で骨折し病院に行くのが困難な人を運んでいる。こうした取り組みが離島やへき地で安心安全に暮らせる環境を支えている。
 ヘリ搬送が安定継続する仕組みづくりや、遠隔治療を含めた医療格差の解消も期待したい。

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