社説

[デジタル教科書]柔軟な仕組みづくりを

2025年5月18日 付

 学びの質の向上に向け、デジタル時代の教科書の在り方が問われている。
 文部科学省の中央教育審議会作業部会が打ち出した中間まとめ案は、デジタル教科書を紙と同様に正式な教科書とするものだ。次の学習指導要領に合わせた2030年度の導入を想定し、年内にも最終案をまとめる。
 教育現場ではデジタル教材の活用が進み、自然な流れともいえる。ただ、長所と短所があり、紙による学びを重視する声も依然根強い。子ども一人一人の学力や特性に合わせて柔軟に使い分けるような仕組みを模索したい。慎重に議論を進めるべきだ。
 現行のデジタル教科書は、小学5年~中学3年の英語と算数・数学に導入。紙の代替教材として併用され、内容は同一である。タブレット端末で読め、音声読み上げ、動画の再生、立体図形の表示といった機能を備える。
 作業部会案は、各教育委員会が「紙」「デジタル」、両者を組み合わせた「ハイブリッド」の3形式から選ぶ。
 正式な教科書であれば、検定や無償配布の対象となる。予算の都合上、すべての形式を無償供与することは厳しいとみられ、どれを選択するかによって地域ごとに学習環境のばらつきと混乱が生じかねない。全国一律で一定水準の教育を受けられる義務教育とは何かといった問題も抱えており、教育委員会に丸投げでは国の責任放棄だ。
 デジタルは、視覚や聴覚に訴える多様な機能が備わり、より深い理解の手助けになる利点があるとされる。文字の拡大や読み上げは、障害のある子にも使いやすい。一方、子どもの視力低下や、授業と関係のない操作に集中してしまうといったデメリットが報告されている。2次元コード(QRコード)の増加によるリンク先の確認も教員の負担が懸念される。
 公立小中学校教員を対象にした財務省の全国調査によると、「デジタルと紙の教科書を併用しているが、紙が多い」との回答が最多だった。現状では使い慣れた紙を主体に授業をしており、デジタル授業が十分に浸透しているとは言いがたい。デジタル特有の機能を使いこなせるかは個人差があり、教員の技量で学習格差が広がることになりかねない。インターネットの通信速度を満たす環境整備も必要だろう。
 中間まとめを受け、中教審には紙の教科書の重要性を訴える教育関係団体の意見が相次ぐ。考える力の育成、記憶の定着といった学習効果を強調する内容だ。デジタル教育の先進国スウェーデンなどでは、学力の低下などから紙の教科書を復活させているという。
 政府はデジタルのメリットを過大に評価し、導入ありきで全面移行を急いではならない。海外の事例を踏まえながら、長期的視点で丁寧に効果や課題の検証を重ねたい。

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