九州電力が新たな原発の建設を検討すると発表した。2035年度までのグループ経営ビジョンに、脱炭素化の取り組みとして「次世代革新炉の開発と設置の検討」を盛り込んだ。
「現時点で建設場所など具体的に決まったものはない」と説明するが、薩摩川内市の川内原発の敷地内が対象になる可能性がある。
南日本新聞が4月に実施した県民意識調査では、1、2号機が稼働中の川内原発への新たな原発建設について反対が51.0%で、賛成の42.6%を上回った。九電には徹底した情報公開と地元への丁寧な説明を求めたい。
水素爆発を伴い、大量の放射性物質を放出した11年の東京電力福島第1原発事故後、政府はエネルギー基本計画で「可能な限り原発依存度を低減」する方針を掲げた。しかし、今年2月の改定で脱炭素化や安定供給などを理由に挙げ「最大限活用」へ転換した。
建て替え要件も緩和し、廃炉を決めた電力会社が別の保有原発の敷地で廃炉分の原発を新設することを認めた。佐賀県の玄海原発1、2号機の廃炉作業を進める九電の場合、川内原発の敷地内への建設が可能となる。
6月に社長に就任予定の西山勝取締役常務執行役員は「原子力は大事なもの。(新原発を)検討していくのはエネルギー事業者として必須だろう」と説明する。前回19年に策定したビジョンでは「(既存の)原子力を最大限活用」としており、国の基本計画に合わせ新増設へ一歩踏み込んだといえる。
既存原発より安全性や燃料の燃焼効率などを高めた次世代革新炉について、経済産業省は5種類を提示する。従来の原発を改良した「革新軽水炉」、出力30万キロワット以下の「小型モジュール炉(SMR)」、ヘリウムガスで冷却する「高温ガス炉」などだ。同省は並行して開発を進める方針だが、巨額な投資に見合う利益の確保や技術面で課題を抱える。
鹿児島県は伊藤祐一郎知事(当時)が10年、川内原発3号機の増設計画に同意。翌年の福島第1原発事故を受け、手続き凍結を表明した。
塩田康一知事もこれを踏襲する。きのうの取材に対し、「凍結というスタンスは変わらない」と説明。次世代革新炉を建てる場合、知事同意はやり直しになるという従来の見方を示した。
九州では大量の電力を必要とする半導体関連工場やデータセンターの建設が相次いでおり、九電は電力需要の増加が見込まれるとしている。
とはいえ、使用済み核燃料再処理工場(青森県)は完成延期を繰り返し、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場建設もめどは立たない。政府はこうした問題の解決を先送りしたまま、次世代革新炉の議論を民間企業任せにしてはいけない。