価格高騰が続くコメを巡り「買ったことがない」と不適切な発言をした江藤拓農相を、石破茂首相がきのう更迭した。江藤氏は発言の責任を取り閣僚の辞表を首相に提出し、受理された。
生活負担増に苦しむ国民の感情を逆なでする無責任な物言いである。米価高止まりの失政と併せ、担当閣僚としての資質を欠いていたと言わざるを得えない。更迭は当然だ。
政府のコメ政策に対し国民の不信と不満は高まっている。首相は農相交代を機に態勢を立て直し、価格抑制に全力で取り組まなければならない。
江藤氏の発言は18日に佐賀市で行った講演で飛び出した。コメについて「買ったことありません。支援者の方々がたくさん下さるので、まさに売るほどあります。私の家の食品庫には」と語った。与野党から一斉に批判されて全面的に撤回、陳謝したが辞任は否定していた。
首相は当初、厳重注意にとどめ続投させる考えだった。世論の反発の大きさを見誤っていたのではないか。
国民の批判が強まる中、野党5党が江藤氏の更迭を求める方針で一致したことで転換に追い込まれた。少数与党の衆院で農相不信任決議案が出れば可決される可能性が高く、政権へのダメージはさらに大きくなるとの懸念もあったのだろう。
首相は任命責任を認め「国民に深くおわびする」と陳謝したものの、対応が後手に回ったとの批判は免れない。
昨夏からのコメ価格高騰は政府の対応遅れで深刻化した。農林水産省は1月、それまで否定してきた備蓄米放出へ方針転換。4月までに3回の入札を行い、計31万2000トンの受け渡しを進めている。だが精米や運搬の準備不足が響いて流通が広がっていない。
江藤氏の後任には、自民党農林部会長の経験がある小泉進次郎氏が就任した。農水省は備蓄米放出に関し、小売業者に迅速に届けるための優先枠を設定するといった運用見直しを決めたばかりだ。価格抑制につなげられるか、早速手腕が問われる。
見直しには5月から7月まで毎月10万トンの放出と、放出分と同量のコメを買い戻す期限を原則1年以内から5年以内に延ばすことが盛り込まれている。政府は適正な備蓄水準を100万トンとする。7月まで放出すれば政府備蓄米は30万トンまで下がるため、自然災害や天候不順による凶作などが発生した場合の対応も課題となる。
政府は民間の中に在庫は十分あるとの考えだが、安定供給に向けてはコメの生産を増やすことが必要だろう。その際には農家の経営を安定させるための所得補償や、直面するコスト高への配慮も欠かせない。これらの構造的な問題の根本解決に取り組まなければ、農政への不信はますます深まる。政府の本気度が試される局面だ。