社説

[ガソリン新補助]いま必要な経済対策か

2025年5月23日 付

 ガソリン価格の抑制を狙った政府の新たな支援制度が始まった。
 平均小売価格が一定水準を下回るよう補助を調整してきたが、そうした目安をなくし、1リットル当たり定額10円を補助する。原油価格が大きく上振れしなければ、これまでよりも家計の負担は和らぐ仕組みだ。
 だが折しも原油相場が落ち着きを見せている。タイミング、内容ともに、いま本当に必要な経済対策なのか。疑問を抱かざるを得ない。
 ガソリン価格抑制策は2022年1月、ウクライナ危機などに伴う世界的な原油急騰を受け、灯油や軽油、重油と合わせて始まった。同年3月末までの速効策のはずが、目安の基準価格や補助上限を見直しながら延長が繰り返された。当初893億円だった予算は、既に8兆円超がつぎこまれている。
 国政選挙が近づいたり政権支持率が下落したりするたび、政府・与党が物価高解消への姿勢をアピールするのに有効な手だてと考えたに違いない。
 今年に入り、米国の高関税政策で世界経済の減速懸念が強まり、原油価格は22年ピーク時に比べ半値程度まで下落。4月中旬にはガソリン1リットル当たりの平均小売価格が185円程度の基準価格を下回る見通しとなり、制度開始以降初めて補助金がゼロになった。
 この市場環境下、政府内では対策終了を模索する動きもあった。ガソリン価格を全国一律の補助金で抑え込む異例の対策からの出口が、やっと見えてきたところだった。
 にもかかわらず、石破茂首相は物価高対策として新たな制度で続行した。夏の参院選を意識した「ばらまき」ではないか。既視感を拭えない。
 新制度でも補助金をまず石油元売り会社に渡し、卸値の抑制を通じて小売価格に反映させる方式は同じだ。激変緩和措置を経て、遅くとも6月中旬には上限の10円まで拡充する。ただガソリンスタンドでは当面、値下げ前の在庫が販売されるため、店頭価格で10円の値下がりを実感できるまでしばらくかかる見通しだ。そうなれば鹿児島をはじめ、車の利用が多い地方の住民は一定の恩恵を受けられるだろう。
 一方、足元では低所得世帯向けの3万円給付などを含む24年度補正予算や、25年度予算に盛り込まれた経済政策が動き出している。脱炭素の取り組みに逆行するガソリン需要の下支えに合理的な理由を見いだすのは難しい。
 自民、公明両党は昨年12月、国民民主党との間で「ガソリン税の暫定税率廃止」を巡る3党合意を交わした。補助金よりもこちらのほうが値下げ効果が大きいとして、野党は早期実現を求める。だが具体的な代替財源についての議論は深まっていない。選挙が近づくからこそ、現在、そして将来に責任ある論争を与野党には期待する。

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