社説

[夫婦別姓法案]議論先送りは無責任だ

2025年5月24日 付

 今国会の焦点となっていた選択的夫婦別姓制度導入は、結論が先送りとなる公算が大きくなっている。
 自民党は党の意見集約が難航し、独自法案の提出を見送る方向だ。一方、野党側は立憲民主党が導入に向けた民法改正案、日本維新の会は旧姓の通称使用を拡大する法案を単独提出するなど、足並みがそろわない。
 法相の諮問機関・法制審議会が導入を答申したのは1996年のことだ。いつまで棚ざらしにするつもりか。改姓を強いられて傷ついたり負担を感じたりしている人たちの声と向き合おうとしないのは、立法府としてあまりに無責任だ。
 民法は婚姻時に夫か妻の姓を称するよう定めている。選択的夫婦別姓制度は、夫婦が望む場合、結婚後もそれぞれの結婚前の姓を使うことを認める制度だ。これまで導入の兆しがあるたび「家族の一体感」を重視する自民の保守派が阻止に動き、審議は進まなかった。昨年、経団連が早期実現を提言したのをきっかけに再び機運が高まり、衆院選の争点にもなった。
 別姓推進、慎重両論がある自民は、今回も意見集約には消極的だった。参院選を前に党内を二分したくないのだろう。昨年の総裁選で石破茂首相は前向きな意向を示していたが、首相就任以降は党内議論に委ねた。2月の参院本会議では「いつまでも結論を先送りしてよい問題とは考えていない」と答弁したものの、リーダーシップが感じられないのは残念というほかない。
 「30年越しの課題」と位置付けた立民は、少数与党下で民法改正案を審議する衆院法務委員長のポストを獲得。先月、法制審の答申案を基にした民法改正案を衆院に提出した。「個人の尊重と男女の対等な関係構築の観点から導入が必要」と明記。別姓を選ぶなら子どもの姓は結婚時に決め、きょうだいの姓を統一する。
 国民民主党は衆院選で別姓導入を公約に掲げた。だが玉木雄一郎代表は先月、旧姓に法的効力を持たせる方向で党内議論を進めたいと表明した。自民に代わる保守層の受け皿を狙ったとされる。結局、玉木氏の主張は採用されず、党は来週にも導入賛成の立場から独自の民法改正案を提出する方針だ。
 各党、選挙がらみの思惑にとらわれず、審議入りに向け努力すべきだ。
 夫婦は同姓にするという法律があるのは日本だけだ。2023年に婚姻届を提出した夫婦のうち94.5%が夫の姓となっており、男性優先が「当たり前」との意識の根強さがうかがえる。
 別姓導入反対の自民保守派などは、旧姓の使用拡大を求める。しかし通称としての旧姓使用は日本独自の制度で、海外で理解されづらい。通称使用では根本的な解決にならないと訴える声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。

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