社説

[ガザ侵攻拡大]人道危機は限界超えた

2025年5月29日 付

 イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザへの大規模な地上侵攻を拡大させている。連日多数の住民が死亡し、約1年半に及ぶ戦闘の犠牲者は5万4000人を超えた。
 極端な食料不足で飢餓に直面する住民をさらに追い込むものだ。ガザ全域の8割を軍事区域や退避通告による「立ち入り禁止」地帯とし、逃げ場を失った人々の命を奪う非道が続く。人道危機は限度を超えている。
 イスラエルは戦闘を止めてイスラム組織ハマスとの恒久停戦に応じるべきだ。民間人の流血が続く惨事を一刻も早く終わらせなければならない。
 3月中旬に攻撃を再開して以降最大規模の侵攻である。イスラエルのネタニヤフ首相は、ガザ全域の「制圧を目指す」と声明を出した。軍事的圧力でハマスに人質全員の解放や武装解除を迫る狙いだ。
 イスラエルは3月から約2カ月半にわたり、ガザへの食料や医薬品などの支援物資搬入を停止した。国連機関などの報告では、住民約220万人のうち50万人が飢餓の危険にさらされ、餓死する子どもも増えている。食料を軍事、政治目的のための「兵器」に使っているとの非難は免れない。
 米国の圧力を受け支援物資搬入は今月19日に再開した。だがネタニヤフ氏は供給を「最低限」に絞る考えで、必要とされる量には遠く及ばない。
 出口の見えない惨状に各国から侵攻停止と物資搬入拡大の要求が強まっている。英国とフランス、カナダの3カ国首脳は声明を発表し、制裁も示唆して警告。欧州連合(EU)の加盟国は、イスラエルとの貿易関係などを定めた協定の見直し検討で合意した。
 さらにドイツのメルツ首相が「攻撃を正当化することはもはやできない」と公に非難したことは重大だ。ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の加害責任から、ドイツはイスラエル支持で一貫しており、首相の批判は極めて異例だからだ。ネタニヤフ氏はこうした国際社会の強い反発を正面から受け止める必要がある。
 ネタニヤフ氏が戦闘を継続するのは、政権に参加する極右政党をつなぎ止めるためだとされる。自らの政治生命のために民間人の殺害を繰り返しているのであれば許されない。
 この強硬姿勢は後ろ盾となってきた米国との間にぎくしゃくした関係を生んでいる。トランプ大統領はガザ情勢にいらだっているとされ、今月の中東歴訪ではイスラエルを素通りした。
 ただ停戦には米国の強い外交圧力が不可欠だ。ネタニヤフ氏のこれ以上の暴走を防ぐ努力を求める。残忍なテロ行為で戦闘のきっかけをつくったハマスは非を認め、人質解放に応じるべきだ。日本も国際社会とともに和平実現への協力を惜しんではならない。

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