社説

[拘禁刑の導入]再犯防ぐ立ち直り支援

2025年5月31日 付

 罪を犯した人に科す刑罰のうち、懲役と禁錮を廃止し「拘禁刑」に一本化する改正刑法が6月1日に施行される。木工、洋裁などの刑務作業が義務ではなくなり、「懲らしめ」から「立ち直り」に軸足を移す大転換である。

 刑法が1907(明治40)年に制定されて以来、刑罰の種類が変更されるのは初めてだ。

 刑事施設に入る受刑者数が減少傾向にある中、再犯者が占める割合は5割を超える。刑務所内外の立ち直り支援を強化し再犯防止につなげてほしい。

 これまでの制度では主に初犯か再犯かで収容先が決まった。暴力団員と万引を繰り返す高齢者が同じ集団に編成される事例もあり、課題だった。

 今後は個々の受刑者の特性に合わせ細やかに対応するため、24種の処遇課程に再編。若年受刑者は学力向上や就労支援、自立した生活が困難な高齢受刑者はリハビリに重きを置く。

 薬物などそれぞれの「依存症回復処遇」、知的・発達障害を抱える人向けの「福祉的支援」も設けた。農業のノウハウやものづくり技術を習得できる特別コースもある。立ち直りに向けた指導・教育に時間がかけられるようになる点は高く評価したい。

 業務が多様化、複雑化する刑務官の意識改革や処遇の改善、専門機関との連携も加速させてほしい。

 受刑者によっては作業時間が短縮することで対価として支給される報奨金が減り、出所後の生活資金に不安が生じることも懸念される。単価引き上げなども合わせて検討が必要となる。

 犯罪被害者側からは、加害者が就労支援などを受けることに批判もある。立ち直りに重きを置きすぎて、自分の犯した罪の重さに向き合わなくなっては本末転倒である。被害者や遺族の声を届ける「心情等伝達制度」を充実させる機会としたい。

 出所後を支える保護司と協力雇用主の制度に不安定さが目立つことも気になる。

 出所者と定期的に面会し、生活上の相談に乗る保護司は非常勤の国家公務員で、無報酬のボランティアである。鹿児島県内は4月30日現在864人。充足率は9割を超えるが、高齢化が進み今後3年で約200人が退任時期を迎える。若手の発掘、育成が急務だ。

 各地の保護観察所に登録し、出所者らを受け入れる協力雇用主は県内に444社(4月1日現在)ある。うち昨年度、実際に就業したのは40人。業種が建設業に偏り、雇用する仕組みが十分周知されていない面もあり、改善の余地が残る。

 無職の再犯率は約7割と、有職者の3倍近く高いとのデータもある。出所後に生きづらさを感じて犯罪を繰り返す悪循環を断ち切るには、社会全体の意識改革も欠かせない。

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