年金制度改革法案がおととい、自民、公明、立憲民主各党などの賛成多数で衆院を通過した。基礎年金(国民年金)の底上げの将来的な実施を付則に明記した。今国会で成立する見通しだ。
与党と野党第1党が歩み寄り、合意に達したことには一定の評価ができる。しかし実際に実施するかどうかは、2029年に行う次回の「財政検証」の結果を踏まえ判断するという。
基礎年金の半分は国庫で賄っているため底上げするには財源確保が必要だが、その道筋は示されていない。国民が安心感を持てる制度設計が必要だ。
経済の低成長が続くと、基礎年金の給付水準は約30年後に3割下がる恐れがある。底上げ策は、1700万人超いる現在40~50代前半の就職氷河期世代が低年金に陥るのを防ぐ対策の一環で、改革の目玉だった。だが厚生年金の積立金を財源に活用することに自民内から「流用」との異論が噴出し、厚生労働省が法案への明記を見送った。
これに対し野党が「低年金者が放置される」と追及。修正協議で自公が立民の要求に応じ、底上げ策を復活させて折り合う異例の展開をたどった。
厚労省の試算では追加で必要となる国費は40年度に5000億円、60年度には2兆円に膨らむ見込みだ。現行の仕組みでは、基礎年金の財源に消費税収が充てられている。年金制度の充実には安定財源の検討が欠かせない。
だが参院選を意識してか、立民は物価高への緊急対策として消費税減税を主張。公明も消費税減税を視野に入れる。自民を含む3党は増税につながりかねない正面からの議論を、あえて避け、聞こえのいい政策を打ち出しているように映る。不誠実ではないか。
今回の法案には、短時間労働者を厚生年金に加入しやすくする適用拡大が含まれる。国民年金保険料の納付期間を現行の40年から45年に延ばす案も付則に検討規定が盛り込まれた。
昨年公表の年金財政検証によれば、厚生年金の適用拡大徹底と保険料の納付期間延長をセットで実現すれば、今回の底上げ策と同程度の給付水準向上を図ることが可能だ。与野党は負担増を伴う議論から逃げずに、国民の理解を得る改革へさらに努力してほしい。
底上げ策は低年金対策としての効果に限界がある点も、留意が必要だ。十分な年金額を見込める人も含め、税を中心とした財源を「薄く広く」配分するものだ。厚労省の試算では、厚生年金受給者を含め現役世代の多くの年金額が増える。一方で、正規雇用に就けずに保険料の未納や免除期間が長く、元々の年金額が低いような人にとって受給増額の効果は小さい。
貧困状態に近い低年金者一人一人の問題解消につなげるためには、年金に限らず医療や介護など社会保障全体の改革に踏み込む必要がある。