尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領の罷免に伴う韓国大統領選は、革新系最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)前代表が制した。3年ぶりの革新政権への交代だ。
公職選挙法違反など5件の刑事裁判を抱える李氏には、大統領の適格性を疑問視する声も出ていた。だが開票結果は、対立する保守系政党「国民の力」の候補を、得票率で8.27ポイント上回った。昨年12月、「非常戒厳」を宣布した尹氏が率いていた党への拒否感が追い風になったのだろう。
もともと韓国社会に根強くあった保守と革新の溝は、戒厳を境に一層深まった。分断を修復し、半年に及んだ政治の混乱に終止符を打てるのか。新大統領に託された最優先課題である。
韓国の大統領選は18歳以上の有権者による直接選挙。任期は5年とし、再選を禁じる。
李氏は2022年の前回選で尹氏に0.73ポイントの僅差で敗れていた。今回、雪辱を果たしたと言える。
27年までの任期を残す尹氏が民主主義を自ら脅かすような非常戒厳に踏み切った背景には、支持率低迷や少数与党による政権運営への焦りがあった。
中でも、最大野党が政府予算案を減額して単独可決したことが引き金になった、との見方は少なくない。野党を「反国家勢力」と断じて強権を発動した。弾劾訴追され、憲法裁判所に罷免されたのは当然である。
その後、保守は戒厳令の評価を巡って内部分裂に陥り、大統領選での候補一本化にも失敗。終盤での追い上げは不発に終わった。
一方、最大野党を率いる李氏は選挙戦で勝利したものの、「(尹氏ら)内乱勢力の断罪」と繰り返す中傷が目立った。候補者間の激しい言葉の応酬に、支持者らも互いに敵意をむき出しに。経済や外交などの政策論争が置き去りにされたのは残念でならない。
当選確実が報じられた直後、李氏は「国民が憎悪ではなく認め合って共に生きる社会をつくる」と演説した。まずは与野党が、冷静に政党間協議できるようにするべきだ。
トランプ関税や北朝鮮の核・ミサイル問題など課題は山積する。韓国敵視を強める北朝鮮に対する中国の影響力行使に望みは薄い。日米韓の連携は重視せざるを得まい。新政権は国内政治を一刻も早く安定させ、国益に沿う外交に臨む必要がある。
尹前政権の対日政策を「屈辱外交」と批判してきた李氏だが、大統領就任後の会見で、日韓間の元徴用工訴訟問題を巡る前政権の解決策について「国家間の関係には信頼の問題があり一貫性が重要」と、維持する考えを示唆した。注視したい。
日韓国交正常化から60年。日本政府は、新政権との良好な関係構築へ歩みを進める姿勢が求められる。