社説

[孤立死2万人]行政、地域で見守りを

2025年6月8日 付

 自宅で誰にもみとられずに亡くなり、生前に社会から孤立していたとみられる「孤立死」が2024年、2万1856人に上った。高齢の男性が多いのが特徴だ。
 内閣府が警察庁のデータを基に初めて推計した。死後8日以上経過して発見されたケースを「孤立死」と位置付けた。
 人間関係が希薄になっている社会状況が背景にある。地縁、血縁といった従来のセーフティーネットだけでなく、行政と地域が連携して見守る体制を構築し、一人でも多く痛ましい死を防ぎたい。
 内訳を見ると、65歳以上の高齢者が7割以上だ。男女別では男性が8割を占めた。一般的に女性より仕事以外での人間関係を築くのが苦手な傾向が強いと言われており、より詳細な分析を進めてほしい。
 今後も未婚率の高まりなどを背景に高齢者の1人暮らしは増えると予想される。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、50年に全世帯の2割以上になる。
 政府は21年、初の孤独・孤立担当相を置き、対策に乗り出した。昨年の孤独・孤立対策推進法の施行を受け、悩みや困り事がある人を地域住民が支える体制整備が進められている。過疎・高齢化は加速する。担い手として期待される自治会などの組織が弱体化する中、施策の具体化を急がねばならない。
 厚生労働省の調査によると、親族らの引き取り手がなく、自治体が火葬や埋葬をした遺体は23年度、全国で推計4万2000人に上った。全国約1160の自治体の調査回答を分析した。
 地域の慣習もあり、火葬や埋葬までの手続きに全国統一のルールはない。遺体の保管期間は数日から1カ月超とばらつきがあった。看過できないのは対応手順を作成している自治体が1割にとどまることだ。国は対応を促すだけでなく、率先してモデルを示してほしい。
 遺体が何日も放置されるのは人間の尊厳を損なう。発見後、清掃や遺体の引き取り探しなどで家主や自治体に大きな負担が生じる。早期発見の仕掛けづくりが必要だ。
 南日本新聞など全国の新聞販売店は宅配を通じた見守り活動に力を入れている。異変があれば連絡してもらう協定を事業者と結ぶ自治体もある。民間の訪問サービスや、プライバシーに配慮しながらセンサーやインターネットなどの技術を活用するのも選択肢の一つだろう。
 誰もが1人暮らしになる可能性があり、孤立に陥るのは個人の責任ではない。孤立死は身近で起きうる社会問題と捉え、向き合う必要がある。安心して老後を過ごせるようにきめ細やかな対策を講じたい。

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