社説

[日本郵便の処分]不正はびこる組織風土

2025年6月12日 付

 日本郵便が所有する全てのバンやトラック約2500台について、貨物運送事業許可を取り消す行政処分案を国土交通省が通知した。各地の郵便局で配達員の酒気帯びを確認する法定点呼が適切に行われていなかった。
 許可取り消しは貨物自動車運送事業法に基づく行政処分で最も重く、大手事業者に出るのは極めて異例だ。聴聞の手続きを経て、不服申し立てがなければ今月中に確定する可能性がある。
 重要な社会インフラである郵便の現場で、安全性をないがしろにする不正がはびこっていた深刻な事態だ。法令順守の意識を欠いた組織風土が厳しく問われる。
 点呼は「安全運行の要」とされる。運行管理者が乗務前後などに実施することが義務付けられている。
 日本郵便は4月、集配業務を担う全国3188局の郵便局のうち、75%に当たる2391局で点呼業務が不適切だったと発表。国交省はそのうちの全国119局を特別監査し、82局で法令違反を認定した。点呼の未実施や、行ったと偽る記録の作成など悪質で許されない行為だ。数は不明だが鹿児島県内でも違反が見つかった。
 処分が確定すれば5年間は再取得できない。輸送量の減少や荷物の遅延が生じる恐れがあり、物流インフラが脆弱(ぜいじゃく)な地方への影響が特に心配される。
 処分の対象車両は宅配便「ゆうパック」の集荷や近距離局間の輸送に使われている。日本郵便は外部の輸送業者や子会社への委託増などで対応を急ぐ考えだ。だが外部業者との調整には時間がかかるとされ、早くも夏の参院選関連の郵便物配達やお中元シーズンを乗り切れるか懸念が広がる。
 そもそも物流業界は運転手不足が切実な課題だ。代替手段が十分に確保できるか見通せない。さらに国交省は今後、日本郵便が届け出制で使用している軽バンや軽トラックなど約3万2000台についても処分を検討する方針だ。
 国交省が公道を使う輸送の安全を優先するのは妥当だろう。一方で円滑な物流を維持する支援も欠かせない。
 近年の日本郵便は不祥事が相次いでいる。ゆうパック下請け企業からの値上げの申し出を不当に拒否したなどとして、下請法違反の疑いで行政指導を受けた。窓口業務を担うゆうちょ銀行の顧客情報を、かんぽ生命保険の営業目的に不正流用した問題も判明した。
 日本郵便と、親会社の日本郵政は近く新社長が就く。後者は民営化後初の旧郵政省(現総務省)出身だ。総務相などを歴任した日本郵政の増田寛也・現社長は、企業統治の強化を期待されながら十分に果たせなかった。内部昇格の新経営陣は原因を徹底的に洗い出せるか、責任は重い。硬直化した組織の体質を根本から立て直さなければ失墜した信頼は回復できない。

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