トランプ米政権の不法移民取り締まりに対する西部カリフォルニア州ロサンゼルスでの抗議活動が、州兵との衝突に発展した。
政権は地元カリフォルニア州知事の同意なしに州兵を動員しただけでなく、本来は海外に展開して軍事作戦に従事する海兵隊をも送り込む。相次ぐ異例の強権発動を憂慮する。
トランプ大統領は派遣の正当性を強調するが、政敵である州知事のニューサム氏を追い込もうとの政治的な思惑が拭えない。国を守るはずの兵力を市民に差し向けるような姿勢は、事態のエスカレートを招きかねない。
抗議活動は、移民・税関捜査局(ICE)が6日にロサンゼルスで捜索令状を執行、大規模な強制捜査に乗り出し数十人を拘束したことを機に起きた。州兵動員に続く海兵隊派遣は、デモが沈静化に向かい始めたさなかに決まった。「市全体の騒乱ではない」(ロサンゼルス市長)との声や警察で対応可能だとする地元の主張は無視した。
一部が暴徒化したのは事実だが、車両が燃やされるなど被害は限定的だった。軍出動の必要性があったのか疑問だ。ニューサム氏は派遣撤回を求め、「兵士を街中に派遣することは民主主義の核心を脅かす」と非難した。
共和党のトランプ政権は不法移民の「史上最大の強制送還」を公約にしている。メキシコと国境を接するカリフォルニア州は最大の移民居住地で、野党民主党の牙城だ。ニューサム氏は民主党内で将来の大統領候補にも名前が挙がる。気候変動対策やトランプ関税を公に批判している。
ニューサム氏を目の敵にしているトランプ氏は、抗議デモ対応に失敗したとして同氏を「無能」とこき下ろした。移民取り締まりを妨害すれば逮捕しても構わないと述べるなど容赦ない。
トランプ氏は1期目の2020年、黒人男性暴行死事件を受けて全米で抗議デモが激化した際、陸軍部隊派遣の準備を進めたが、当時は国防長官らの反対で派遣は見送られた。
今回、政権内の歯止め役がいない状況があらわだ。ヘグセス国防長官は、いち早く海兵隊派遣に言及した。軍部隊が「政治の駒」にされかねない。
調査機関によると、米国内で暮らす移民は約4600万人(22年)で、このうち不法移民は1100万人とされる。移民対策に国民から一定の支持を得ているとの自信が、大統領の強硬姿勢を後押ししたようだ。
だが大都市では移民が法的資格の有無にかかわらず経済、社会の一端を支えている現実がある。トランプ氏は、同僚や隣人が逮捕、送還される市民らの怒りや痛みに目を向けるべきだ。
政権の締め付けへの反発から他の都市にも抗議デモが広がっている。大統領自ら、混乱をあおってはならない。