米国を後ろ盾とするイスラエルが、イラン核関連施設への空爆に踏み切った。核物質が飛散し民間人被ばくを引き起こしかねない暴挙である。
イランは100機以上の無人機で反撃した。「米国も重い代償を払う」と警告し、中東の米軍基地を標的にすることも辞さない構えだ。
軍事行動が中東全体に拡大する恐れがある。双方に自制を求める。国際社会も結束し、報復の連鎖を断ち切らねばならない。
イスラエルは空爆後、イランには数日以内に核爆弾15発を製造できる濃縮ウランがあると主張し、「脅威を排除した」と正当化した。米国と中東諸国が続ける外交努力の結果が出る前の武力行使に理解は得られまい。
国内ではパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスが拘束する人質を解放するための停戦交渉妥結を求める声が高まる。イラン核施設への空爆は、国民の目をガザからそらす狙いも透けて見える。即時中止すべきだ。
イランへの攻撃容認を求めるイスラエルに、米国は自制を促していた。米外交の価値をおとしめる行為に断固とした態度で対応する必要がある。
イスラエルとイランは中東最悪と言われる敵対関係にある。2024年4月と10月にも、互いの領土を直接攻撃している。
イスラム教シーア派大国イランはイスラエルを「パレスチナの占領者」と位置づけ、国家として認めていない。イスラエルと対立するハマス、レバノンの民兵組織ヒズボラ、イエメンの武装組織フーシ派とも密接な関係にある。
一方、事実上の核保有国であるユダヤ国家イスラエルは、核開発を進めるイランを安全保障上の最大の脅威と捉え、ハマスをはじめとする親イラン勢力を繰り返し攻撃してきた。
気になるのは、トランプ米大統領の立ち位置がはっきりしないことだ。
そもそもイランの核開発を巡っては、オバマ政権時代の15年、イランが開発を制限する見返りに、米欧など6カ国が制裁を解除する合意を結んでいた。しかし第1次トランプ政権が18年、一方的に離脱し制裁を強めた。イランは高濃度ウランの生産を加速させ、合意は機能不全に陥った。
第2次政権では今年4月以降、イランとの核協議を5回実施した。だがウラン濃縮活動の完全停止を求める米国と、平和利用目的だと主張するイランとの溝は埋まっていない。今月15日に予定していた6回目の協議も見通せなくなっている。
日本は唯一の被爆国であり、イラン、イスラエル両国とも比較的良好な関係を保つ。週明けにカナダで開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)や対米交渉では議論をリードする役割を担っていると自覚すべきだ。