通常国会があす閉幕する。少数与党の自民、公明両党は野党の要求に修正を重ね、苦しい立場をしのいだ。
論戦の中身や政策決定の過程が見えやすくなった利点はある。しかし与野党ともに「熟議の国会」としながら、個別政策ごとの思惑や駆け引きばかりが目立ったのは残念だ。物価高やトランプ関税への対応など内外の重要課題に対して国民が抱く不安に、石破茂首相が応えたとも言い難い。
前半のヤマ場となった2025年度予算を巡って自公は、日本維新の会と高校授業料無償化などで合意した。所得税が生じる「年収103万円の壁」の178万円引き上げを求めた国民民主党との協議は決裂したものの、160万円まで引き上げた。
医療費支払いを抑える高額療養費制度の自己負担上限額引き上げを、立憲民主党の主張に応じ全面凍結。衆参両院でそれぞれ予算案を修正する異例の措置を取った。年金制度改革法も基礎年金(国民年金)の将来的底上げを加える修正に応じ、立民の賛成を得た。
与党の主体性が後退したのは間違いない。一方で石破首相は、主要野党3党が独自色発揮に固執する状況を巧みに利用し、政策ごとに連携を図って分断に持ち込んだと見ることもできる。
与野党の対決姿勢がしぼむ要因となったのがトランプ関税だ。立民の野田佳彦代表は「国難」との認識を首相と共有し協力を公言。最終盤には「政治空白を避ける」との理由で内閣不信任決議案の提出を見送った。まとまりを欠き、数的優位を全く生かせなかった野党の在り方は物足りなかった。
容認できないのは、自民の派閥裏金事件を契機とした政治資金の問題と、期待の大きかった選択的夫婦別姓の導入がまたも先送りされたことだ。
企業・団体献金に関して、自民、公明、国民民主3党が存続を前提とするのに対し、立民など野党5党派が禁止を主張。関連法案を巡って歩み寄れず、継続審議となった。裏金事件も真相は解明されぬまま。昨年の衆院選で自公を少数与党に転落させた民意を踏まえると、政治不信の源にある問題をおざなりにしたのは理解できない。
選択的夫婦別姓については、野党3党がそれぞれ提出した導入法案などが28年ぶりに審議されたが採決を持ち越した。自民は別姓に強く反対する保守派と推進派の見解が分かれ意見集約を断念。年来の課題に対し本格的な議論を避けたのは怠慢と言うしかない。
政府備蓄米を大量放出しコメ価格抑制を図る政策転換で内閣支持率が回復傾向にある中、7月3日公示、20日投開票となる参院選へ向け事実上の選挙戦に入る。物価高対策は減税か給付金かとの各党の主張に関心は高まるが、今国会で残された課題が重要な争点であることを忘れてはならない。