社説

[米がイラン攻撃]力による横暴 許されぬ

2025年6月24日 付

 超大国の米国がイランの核施設を攻撃した。
 イランの核開発を「自国生存の脅威」と捉え先制攻撃を仕掛けたイスラエルに歩調を合わせた。国連安全保障理事会の常任理事国であるにもかかわらず、正当な根拠を示さぬまま踏み切った攻撃は、力による現状変更そのものだ。国際法違反の疑いが強く、国際的秩序を脅かす暴挙と言える。
 イランは反撃を宣言した。報復の応酬で、中東情勢が周辺国を巻き込んだ全面戦争に発展する恐れがある。全ての関係国に最大限の自制を求める。即時停戦に向けた働きかけを強める時だ。
 米軍が攻撃したのはイラン中部フォルドゥなど3カ所の核施設。B2ステルス爆撃機も投入し、地下施設を特殊貫通弾(バンカーバスター)で空爆した。トランプ氏は演説で「世界一のテロ支援国家による核の脅しを阻止するため」と強調した。交流サイト(SNS)でイランへのさらなる攻撃を警告しつつ、「今こそ平和の時だ」と訴える。
 グテレス国連事務総長が「平和と安全への直接の脅威だ。軍事的解決策はない」と警鐘を鳴らすのはもっともだ。

平和構築者どこに

 トランプ氏はこれまで世界の紛争を終わらせる「平和の構築者」を自任し、歴代米政権の軍事介入を批判してきた。
 核開発疑惑のあるイランとも4月以降、5回にわたり協議を重ね、イスラエルには自制を促していた。
 突然の方針転換に首をかしげざるを得ない。
 核施設への攻撃は、内外で放射性物質が拡散する重大な結果を引き起こす恐れがあり、許されるものではない。
 そもそもイランの核開発を巡る混乱は、それまであった国際的な核合意を、第1次トランプ政権が一方的に離脱してほごにしたことが発端である。責任を自覚すべきである。
 米政権幹部は今回の攻撃後、「イランと戦争をしているのではなく、イランの核開発計画と戦っている」と述べ、全面戦争は望まない考えを示した。圧倒的な戦力差を盾にイランの無条件降伏を期待しているのかもしれないが、1回の爆発で全てが終わるというのは幻想である。イランが報復を控える可能性は低いとみられる。核拡散防止条約(NPT)を脱退し、他のイスラム諸国が追随することも考えられる。
 8年続いたイラク戦争、20年に及んだアフガニスタン駐留でも、介入は短期間で「米国の勝利」に終わるはずだった。フセイン政権の崩壊後、内戦状態に陥ったイラクでは過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許し、憎しみの連鎖を生んだ苦い教訓を忘れたのだろうか。
 力による現状変更を認めると、ウクライナ侵攻を続けるロシアはもちろん、台湾統一を「歴史的任務」と位置づけ軍事圧力を強めている中国にも、武力行使を正当化する口実を与えることになる。

核開発放棄も必要

 イラン側にも、非があったと言わざるを得ない。核兵器開発を疑わせる行動を取ってきたからだ。
 濃縮度を60%に高めたウラン生産を加速させていた。イランは「平和利用」を主張するが、原発用のウラン燃料は濃縮度が数%。核兵器級の90%に近づく濃縮活動は、国際社会の疑念と反発を強めた。
 カナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)でイスラエルの自衛権を支持し、「イランはテロの源だ」などの文言を入れた共同声明を発表するきっかけを与えてしまったとも言える。
 イスラエル根絶を公言するイランが核兵器を持てば、イスラエルを標的にし核戦争につながる可能性がある。イスラエルや国際社会が危機感を強めるのも無理はない。
 だからといって、国際ルールや秩序を破る米国やイスラエルの攻撃が許される訳ではない。
 イランでは原油輸送の要衝ホルムズ海峡の封鎖という強硬論が拡大してきた。原油の9割以上を中東に依存する日本経済に影響が及ぶ可能性がある。
 イラン側には、最高指導者ハメネイ師を頂点とする体制のメンツを強硬手段で維持したい事情があるのだろうが、自制を求めたい。過剰な報復は事態のエスカレーションを招く。中東のイスラム大国としての威厳を保ちながら、国際社会にイスラエルと米国の不当性を我慢強く訴え続けることを望む。
 石破茂首相は、イスラエルのイラン核施設攻撃に対し、「到底容認できない」と強く非難した。唯一の被爆国として当然の対応である。
 同盟国であるとはいえ、今回の米国の攻撃にも強い態度で臨んでほしい。国際法を守ることが対中政策でも重要であることを米国に説く役割もあるはずだ。

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