社説

[新体育館設計9億円可決]県民の納得得られるか

2025年6月25日 付

 鹿児島県議会の文教観光委員会は、県が鹿児島港本港区ドルフィンポート跡地に計画する新総合体育館の設計に関連し約9億円に上る予算議案を可決した。事業の見直しなどを求めた陳情の審査・採決も行い、「賛否を問う県民投票の実施」は不採択とした。

 6月定例会で各委員会に付託された体育館整備を巡る陳情は、異例の93件に上る。見直しを求める内容が6割を超え、意見が割れている現状を浮き彫りにした。

 設計議案はあすの最終本会議でも可決されるとみられる。県最大規模の事業は新たな局面を迎えるが、このままで県民の納得は得られるのだろうか。

 文教観光委は、自民、公明、県民連合が賛成し、無所属の1委員のみ反対した。「県民の関心が高い問題」として、2日間にわたって審査したものの、総質疑時間は3時間足らずとあっけなく終わった。

 新体育館事業見直しに関する陳情は、4月上旬から出され始めた。建設自体に反対しないものの、場所や規模の再検討を求める内容が目立った。

 陳情の多さは提出を呼びかけるウェブサイトが影響したとみられるが、異論は従来くすぶっていた。2022年の基本構想策定時は8000席と想定していた客席数を1000席減らしても、事業費は当初の倍の500億円近くに膨らむ方針が今年2月に示され、一気に噴き出したと言える。多様な声を踏まえた議論が尽くされたのか疑問が残る。

 注目すべきは、陳情の多くが「県政と県民との意見交換の場」を求めていたことだ。物価高や人口減の中、予算化に突き進んだ県の姿勢に、県民の理解が広がっていないのは明らかだ。

 県は、「詳細な建設費を示すため」に設計費の計上が必要だとの説明を繰り返してきた。だが、9億円ともなると「後戻りできない金額」との懸念は議会内でも挙がっていた。現段階の設計費として多額すぎないか。妥当性の追及は十分だったのだろうか。

 客席数は経済波及効果を重視し、8000席を維持。建設費推計は423億円を示した。整備手法はPFI方式(資金調達から運営までを包括発注する)から、個別発注に切り替えた。

 手法が変わったことを理由に県は維持管理・運営費を含む事業費を示さず、7000席488億円との比較ができなくなった。全容は分かりづらくなる一方だ。「コスト削減」は形ばかりの提案に過ぎなかったのではないかとの疑念を持たれても仕方ない。県民のふに落ちる説明を尽くしてもらいたい。

 文教観光委の岩重礼委員長は「建設まで認めた訳ではない」と強調した。なし崩しとならないよう、議会の責任も極めて重い。

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