激しいせきの発作が長期間続く感染症「百日ぜき」が全国的に流行している。重症化しやすい乳児への感染を食い止めなければならない。
全国の医療機関から6月16~22日に報告された患者数(速報値)は3211人。全数把握調査を始めて以降、初めて3000人台となった同2~8日の3044人を上回った。
1月からの累計は3万5810人で、前年の約9倍に上っている。鹿児島県でも894人となり、最多だった2019年の728人を既に超えた。
大人は軽症で済むことも多いが、感染源となる可能性がある。感染対策を徹底してほしい。
細菌による感染症である百日ぜきは、せき、くしゃみなどの飛沫(ひまつ)や接触で拡大する。感染力は非常に強い。7~10日間の潜伏期間を経て風邪の症状が現れ、次第にせきの回数が増え、程度も激しくなる。回復まで2~3カ月かかるケースが多いという。
特に生後6カ月未満の乳児は重症化しやすく注意が必要だ。けいれんや呼吸停止に至ることがあり、肺炎、脳症を併発する。死亡例も複数出ている。
新型コロナウイルスの感染対策が徹底された21~23年は国内、海外共に患者が少なかったが、24年半ばから増え始めた。21年以降、年間3~7人と1桁で推移していた鹿児島県内でも今年4月中旬から高い水準が続いている。
乳児の予防には5種混合ワクチンが有効とされる。定期接種が生後2カ月から4回、公費で実施される。
感染は年代を問わず広がっているが、目立つのはワクチンの効果が薄れる幼稚園年長や小中学生だ。県によると、今年の患者数894人のうち10~14歳が507人、5~9歳が225人。この両年代で全体の8割を占める。1~4歳は21人、0歳は19人。
大人は症状が軽いことが多く、長期間せきが続いても見過ごされることがある。自覚のないままうつしてしまいかねず、注意が必要だ。手洗いやマスク着用といった基本的な感染対策が重要になる。
特に妊婦や小さな子どもの近くでは徹底してほしい。
小中学校や幼稚園、保育所では、集団感染に警戒しなければならない。日本小児科学会は、就学前の幼児と11~12歳に百日ぜきを含むワクチンを任意で追加接種することを推奨している。大人も含め、せきが長引く場合は百日ぜきの可能性を考え医療機関を受診して、感染拡大を防ぐことも大切だ。
気がかりなのは、治療に使う抗菌薬の効かない耐性菌も報告されていることだ。東アジアで拡大傾向にあり、国内でも今春、耐性菌により1歳女児が亡くなっている。
「かからない」「広げない」意識を高めてもらいたい。