民主政治を正常に機能させるには、選挙は公正に実施されなければならない。選挙時の交流サイト(SNS)の偽情報は投票行動を左右しかねず、参院選でも影響が懸念される。
不確実な情報はうのみにせず、いったんやり過ごすことが必要だ。有権者には、事実に基づく情報か見極める力が求められる。
SNSと選挙の関係は昨年の兵庫県知事選を機に問題化した。候補者らの発言を短く編集した「切り抜き動画」が拡散。注目を集めるため過激化し真偽不明の情報も入り交じった。閲覧数に応じ広告収入が増えるSNS特有のビジネスモデルが助長したとされる。
現行法では、SNS事業者は削除要請があっても即日対応はできない。投稿者の反論期間を設ける必要があるからだ。この間に、偽情報の拡散が進む恐れがある。「デマを流した者勝ち」になっている現状は否めない。
5月施行の改正公選法は、SNSの偽情報拡散を念頭に「必要な措置を講じる」と付則に盛り込んだが、法整備などは見送られた。
代わりに6月末、与野党の協議会は声明を発表し、偽情報を広げないための努力をSNS事業者に要請した。国民に対して、発信源や真偽を確認するよう訴えたのも意義がある。各候補者、政党自身にも、より客観的なデータや根拠を踏まえた発信を期待したい。
憲法が保障する「表現の自由」の観点から、事業者への過度な規制は、慎重であるべきだ。しかし公職選挙法には、新聞社やテレビ局に対し「事実を歪曲(わいきょく)するなど、表現の自由を乱用して選挙の公正を害してはならない」との歯止め規定がある。SNS事業者も偽・誤情報対策に責任を果たさなくてはなるまい。
SNSは政党や候補者の政策を伝え、政治への関心を高めるツールとして有効だ。個人が政治家に直接意見を届けられる利点もある。一方で、違う意見が届かない「フィルターバブル」、自身の考えが正しいと思い込む「エコーチェンバー」など情報が偏る特性が、社会の対立をあおり、分断を招きかねない点に留意したい。
報道機関の役割も問われる。兵庫県知事選では、「選挙の公正」を確保するとして選挙期間中の報道を控える新聞やテレビの姿勢が、デマの浸透につながったと批判された。
南日本新聞社が加盟する日本新聞協会は先月、「事実に立脚した選挙報道により、民主主義の維持発展に貢献する」との声明を発表。報道各社のファクトチェック(事実の検証)記事を協会のX(旧ツイッター)で紹介する取り組みも始めた。南日本新聞も有権者の判断に役立つ報道に努めていく。