社説

[交通空白地]解消へ政策の総動員を

2025年7月27日 付

 公共交通機関の「空白」に当たると自治体が判断した地区が全国で2057カ所に上ることが分かった。国土交通省が初めて集計し5月に公表した。近くに鉄道やバスの駅・停留所がなく、タクシーもすぐには来ないケースが多いと考えられる。

 国交省は財政支援や助言を強化し、2027年度までの3年間で空白解消を目指すとする。自治体やNPOが運営する公共ライドシェアや予約制の乗り合いバス導入を促す方針だ。住む地域によって移動の自由が損なわれないように全力を挙げてほしい。

 「誰もがアクセスできる移動の足がないか、利用しづらい」とみる地域はどれくらいあるか。国交省は2、3月、全市区町村に洗い出しを要請し92%の1603市区町村が回答した。交通空白地区は47都道府県の計717市区町村であり、そこに住む人は1407万7000人で全人口の12.5%だった。

 鹿児島県内43自治体では22市町村が「空白地区がある」と答えた。南日本新聞が24年春に実施したアンケートでは17市町だった。国交省が空白地の判断基準を示していないため単純比較はできないが、この1年余りで路線バスの減便・廃止が相次ぐ現状を見ても、交通の利便性の悪化が加速している地域は少なくない。

 空白地区と判断したのは、日置市11、出水市7、さつま町と徳之島町が各5と続き、全体で62地区に上る。居住人口23万2000人は県全体の15.3%に当たる。予約制乗り合いバス運行をはじめ何らかの対応をしているのは15地区に過ぎない。大半の地区の住民は自分や家族らが運転する車で移動しているとみられる。この先、年齢を重ねていけば移動手段を失いかねない。

 緊急ではないものの交通問題を未然に防止する策が必要だと各自治体がみている「要モニタリング地区」も気になる。県内では38地区(25万人)あり、有効な手を打てなければ空白地が一気に広がる可能性もある。

 国交省は6月下旬に開いた交通政策審議会部会で、人口減や高齢化が深刻な地域での移動手段を確保するため、自治体と交通事業者の連携強化を促す新たな制度の検討に入った。地域交通の担い手でもある自治体への支援策も話し合う。ただ、小さな市町村は専従職員を配置する余裕はない。地域の将来像を見据えた上で、国には政策を総動員して支援してほしい。

 国交省の25年版交通政策白書によると、全国の路線バス事業者が23年度中に廃止した距離の総延長は2496キロで、前年度1598キロの1.5倍だった。

 高齢者をはじめ交通弱者が外出しづらい世の中にしてはいけない。地域交通は地方創生の重要な基盤の一つである。

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