「選挙の顔」をすげ替えれば、自民党離れが収まるという考えなら、あまりにも危機感を欠いている。突き付けられたのは、自民政治そのものへの不満だったと言える。
自民の参院選大敗を受けたおとといの両院議員懇談会は、党総裁の石破茂首相への批判が相次いだ。
首相が一連の「政治とカネ」問題に指導力を発揮できなかったのは事実だ。一方、「石破おろし」には旧派閥単位の動きがうかがえ、内輪の責任の押し付け合いに見える。まず惨敗の要因を検証、総括し、党の体質改革を急がなくては民心は離れるばかりだろう。
懇談会で首相は続投理由として、農業政策や社会保障と税の在り方、日米関税合意を実行する「責任」を挙げた。議論は予定の2時間を超え、4時間半に及んだ。党内の沈静化を図ったが、退陣論を抑える効果は不透明だ。
昨年、石破総裁が誕生したのは従来の自民からの刷新感を打ち出す狙いだった。しかし、派閥裏金事件や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題とも自浄能力に乏しく、自民は変わらない、と有権者からみなされた。物価高対策も後手に回り、参院選は与党批判が噴出した形だ。
多数派が政権を担う憲政の常道に従えば、石破氏が退陣し自民、公明両党は野に下るのが筋ではないか。
とはいえ、自民不信の根源にある事件は石破政権発足前に発覚した。震源地となった旧安倍派議員が石破おろしを率先していることに、首相が憤るのも理解できる。国会で裏金還流の経緯をただされても「知らぬ存ぜぬ」の態度を取った幹部らに、惨敗した選挙結果を責める資格があるのか。
「石破自民党では戦えない」との、首相経験者らの主張にもうなずけない。一連の不祥事の究明と再発防止に努めることが必要だ。党則や政治資金規正法などの関係法を改正することが、政治への信頼回復の一歩となる。
いずれにしろ、衆参の国政選挙2連敗の責任を、このままうやむやにはできまい。若手や中堅が求めていた議決機関「両院議員総会」を近く開くと決めた。
対立がなお激化し、党内政局が長期化する可能性もある。首相の進退問題が決着せず、政治の停滞を招くことがあってはならない。内向けでなく有権者が納得する形で、党の出直しとなる議論が求められている。
石破首相の支持者からは、政権の保守化を懸念する声が出ている。「日本人ファースト」を訴えた新興の参政党に、安倍晋三元首相が取り込んでいた、いわゆる「岩盤保守票」が流出したとの見方があるためだ。離れた支持を取り戻そうと参政寄りの政策を打ち出したり、派閥回帰に走ったりするより党改革への責任を自覚すべきだ。