参院選を経て、日本政治の状況は大きく転換した。自民・公明両党が衆参両院で少数与党となり、単独で政権を担えない中小の政党が乱立する「多党化」の時代を迎えた。
今後の国会運営は今までにも増して野党主導の様相となるのは確実だ。より多くの民意を政策に反映しやすくなる半面、各党が党利党略に走れば、物事を決めるのに時間やコストがかかり、政治の停滞を招く。
政策協議が短期的な争点に集中しないかとの懸念もある。各党は本格的な少子高齢化の中での社会保障や財政、防衛、環境など中長期の課題も取り残さず、幅広い合意形成を図る政治の在り方を構築しなければならない。
野党の攻勢の一端は、おととい召集された臨時国会で早くも表れた。立憲民主や国民民主など7党が、ガソリン税の暫定税率廃止法案を衆院に共同提出。事前に与野党は廃止について「今年中のできるだけ早い時期に実施する」との合意文書に署名していた。
廃止に後ろ向きだった自民が容認に傾いた理由について、坂本哲志国対委員長は「参院選で明確になった新たな民意に従う」と述べた。今回の大敗で強硬な対応ができなくなったことを裏付けた形と言える。
今後の焦点となるのは、参院選の最大の争点だった物価高対策だ。有権者が支持したのは自公両党の現金給付案ではなく、野党の消費税減税だった。
ただ各党の主張は範囲や税率、期間がバラバラで一致点を見いだすのは困難だろう。野党第1党の立民が主導するのが筋だが、参院選で伸び悩んだ影響で展望を開けるかは不透明だ。
立民を中心に野党が結集して自公に代わる連立政権を組む機運も乏しい。参院選前と同様に各党が公約実現のために与党との連携に動くことは十分予想される。野党内ではそれぞれに妥協しない姿勢も目立つ。共産党、参政党といった左右両極の勢力までまとめるのは現実的ではないだろう。
政治の流動化が進めば、社会の対立や分断が進み、次世代にツケを回すことにもなりかねない。参院選で躍進した国民民主と参政を含め、支持層以外も納得できる具体的で責任ある政策を打ち出せるかが問われる。
自公も野党の協力なしに政権運営が立ち行かない以上、より丁寧に議論し、日本の将来を見据えた大局的な政策を実現してもらいたい。
参院選は、国民の既成政治への不信と価値観の多様化を示した。1990年代からの「政権交代可能な二大政党制」の試みの頓挫も明らかだ。現行の選挙制度は衆院が小選挙区比例代表並立制、参院は選挙区と比例を併せた制度となっている。有権者の多様な意思を反映させるには、今のままでいいか。多党化の中で議論すべき論点だ。