社説

[最賃1000円超へ]中小企業支援が不可欠

2025年8月7日 付

 厚生労働省の中央最低賃金審議会が、最低賃金の全国平均を時給1118円とする2025年度改定額の目安を取りまとめた。24年度より63円(6.0%)増で、上げ幅、額ともに過去最高となった。

 議論の舞台は都道府県ごとの地方審議会に移り、目安や地域事情を考慮して実際の改定額を決める。目安通りに改定すれば、鹿児島を含め全都道府県での時給千円超が初めて実現する。

 物価高が直撃しており、働く人の処遇が改善されることは評価できよう。ただトランプ関税の影響も読みにくい中、経営体力の乏しい企業にとって急激な人件費の増加は痛手である。

 日本商工会議所の調査では「20年代に1500円」の政府目標に対し対応が「不可能」「困難」と答えた企業が7割を超えた。特に中小零細企業への政府のきめ細やかな支援が不可欠だ。

 最賃は毎年改定され、全ての労働者に適用される時給の下限額となる。労働条件を改善し、労働者の生活を安定させることが目的で、下回った企業には罰金が科される。

 労働者と経営者の代表、有識者でつくる中央最低賃金審議会が物価や企業業績を指標に、改定額の目安を決める。経済情勢などで都道府県を三つに区分し、地方部を中心とした鹿児島など13県のC区分の上げ幅を64円、都市部を含むA、B区分は63円とした。目安通りだと鹿児島は1017円となる。

 CがAを上回るのは初めて。拡大傾向が続く地域間格差を縮小させる動きとして歓迎したい。

 一方、今回の論議では賃上げを「成長戦略の要」と位置付ける政府が揺さぶりをかける構図も鮮明だった。赤沢亮正賃金向上担当相は水面下で大幅な引き上げを繰り返し求めたとされ、「前代未聞の政治介入」「官製賃上げ」などと批判を招いた。3者が反発したのは当然だ。審査は44年ぶりとなる7回目の小委員会までもつれた。

 石破茂首相は目安より最賃を引き上げた都道府県に、交付金や補助金で財政支援すると言及している。

 24年度の地方審議会では、鹿児島など27県が50円の目安を上回って改定した。地方にとっては人材流出を食い止める意味合いもあった。昨年、34円上回る84円の引き上げに踏み切った徳島県は社員1人当たり最大5万円の一時金を支給したものの、地元企業から「需要が落ちているところに人件費増は打撃」「価格転嫁は限界」といった嘆きが漏れる。過剰な地域間競争で体力が奪われ、廃業や雇い止めなどで地域経済に影響が出たら本末転倒だろう。

 政府は稼ぐ力を高めるための支援や、下請け業者との適正取引を進める取り組みに注力すべきだ。社会保険料が生じる「106万円の壁」などの議論も加速させる必要がある。

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