8日の記録的大雨で被害を受けた、JR肥薩線の吉松-隼人の年内復旧が難しくなった。表木山(霧島市隼人町嘉例川)-日当山(同市隼人町内)で約50メートルにわたり線路を支える土台(築堤)が崩壊したためだ。JR九州が明らかにした。
現場写真を見ると、地面が大きく削られて険しい渓谷のようになり、線路のレールと枕木が宙に浮いているのが分かる。雨の激しさを物語るようだ。
多くの高校生が通学手段に利用する路線である。生活や観光への影響を心配する声も出ている。JR九州は吉松-隼人の復旧に向けて、工法などの検討を進めるという。早期再開へ全力を挙げてほしい。
同社によると、崩壊現場は1993年の8・6水害でも被災した。近くの川からの増水や土砂の流入を防ぐコンクリート擁壁を設けていたが、今回は擁壁ごと流出した。周囲に道路がない山中のため重機や資材を運ぶのも困難で、早期復旧が難しいという。
同社は9月1日から代替バスを運行する計画を示す。複数の高校の時間割や部活動に対応するのは難しいかもしれないが、高校生の利便性に配慮した運行時間帯や便数の設定を求めたい。
肥薩線は2020年7月の熊本豪雨で不通となった八代-吉松のうち、人吉-吉松の通称「山線」の復旧見通しが立っていない。加えて今回の被害で沿線住民が「このまま利用者が減り廃線とならないように」と心配するのは無理もない。観光利用を含めた地域活性化に欠かせない路線だと、地元が機運を高めることが重要だ。
日豊線も被災し複数の不通区間が出た。徐々に再開しているが霧島神宮-国分は来月下旬にずれ込む見通しで、こちらも代替バスを走らせる。JR貨物は、使用する肥薩おれんじ鉄道の被災で輸送に大幅な遅れが生じ、復旧には1カ月以上かかるとみられる。
地域交通は、国が旗を振る地方創生の基盤である。暮らしや企業活動への支障が広がらない対応策が要る。
農業被害は約64億円に及んだ。農地と農業用施設の被害が大きい。水稲など農作物は全容をつかめておらず、さらに膨らむと見込まれる。
内閣府は、今回の大雨被害について、対象地域を限らない「激甚災害」に指定する見通しを示した。総務省は被害が出た霧島、薩摩川内、曽於、姶良の計4市に9月分の普通交付税計30億5700万円を前倒しする。
県によると、19日午後3時現在で住宅被害は全壊2棟、床上・床下浸水1203棟と判明した。国や自治体はさまざまな支援策で被災者の生活再建を後押ししてほしい。地域に老朽化したり、危険な状態になったりしているインフラ設備がないかを確認し、災害に備えた対応を取ることも求められる。