社説

[マダニ感染拡大]警戒強め予防策徹底を

2025年8月23日 付

 マダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の患者が過去最多を更新した。国立健康危機管理研究機構は、今年の累計患者数が速報値で135人になったと公表。これまで最多だった2023年の134人を上回った。今年は10人以上の死亡が確認されている。

 鹿児島県によると、県内は17日までに患者8人で昨年の6人を上回った。

 山中や草むらでの活動、農作業中にマダニに刺されて感染することが多い。飼い猫、飼い犬からの感染も起きている。野外での服装は腕や足など肌の露出を避け、ペットは室内飼いとするなど基本的な予防策を徹底したい。

 SFTSはマダニに刺されてウイルスが体内に入り、発症する感染症だ。主な初期症状は発熱、下痢、嘔吐などで致死率は10~30%。高齢者が重症化しやすいと考えられ、患者の約90%が60歳以上、死亡者は50歳以上が多い。

 国内では13年に山口県の成人女性の感染が初めて報告された。西日本からじわじわ拡大し、今年は初めて北海道で確認された。専門家は「もはや全国どこでも注意が必要だ」と警鐘を鳴らしており、警戒を強める必要がある。

 感染拡大の一因と考えられるのが、マダニが付着するシカやイノシシなどの行動範囲の広がりだ。これらの野生動物が人の生活圏まで入り込み、マダニを運んでしまうとみられる。その結果、元々いた山中と離れた場所で産卵し、感染を広げるケースもある。

 屋外に生ゴミを置いたり、農作物を放置したりすれば野生動物を不用意に引き寄せかねず、気を配りたい。

 気候変動の影響も指摘される。マダニは春から秋に盛んに活動するが、温暖化で活動期間が長期化し、生息域が拡大しているという。

 ペットの感染では、犬よりも猫の発生数が格段に多いとの調査結果がある。致死率も50~60%と高い。猫を屋外に出さないことが感染リスクの軽減につながる。外を出歩いた場合は、脇など柔らかい部分にマダニが付着していないかを確認してほしい。

 SFTSは直接刺されるほか、感染した人や動物の血液などを介してうつることもある。三重県では感染した猫を治療に当たった獣医師が死亡した。厚生労働省は口移しで餌を与えるなど、ペットとの過剰な触れ合いを控えるよう求めている。注意すべきだろう。

 感染予防のワクチンはなく、抗ウイルス薬が承認されている。刺されたら、皮膚科で除去してもらうことが大切だ。無理に取ろうとすると、マダニの一部が皮膚に残って化膿したり、体液を逆流させたりして、ウイルスが体内に入りやすくなる恐れがあるためだ。

 鹿児島県はホームページで情報を提供し、注意を呼び掛けている。正しい知識を得て身近な危険に対処したい。

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