陸上自衛隊と米海兵隊が11~25日の予定で、主に九州、沖縄で大規模訓練「レゾリュート・ドラゴン」を実施している。
「防衛にかかる強固な意志を国内外に示すことが必要だ」。陸自の参加部隊を率いる司令官の発言が、南西諸島周辺で軍事的圧力を強める中国をけん制しているのは明白だ。
鹿児島県内では海自鹿屋航空基地(鹿屋市)、陸自奄美駐屯地(奄美市)での米輸送機オスプレイ離着陸訓練のほか、徳之島の民間港で米軍の半潜水型無人艇を物資輸送に使う訓練などが含まれる。
日米合わせて過去最大規模の約1万9000人が参加。米軍が投入する最新鋭兵器には、中国が核兵器も搭載可能と主張し「深刻な脅威」と非難する中距離ミサイル発射装置も入る。
ここ数年の間に、戦後日本の平和国家としての姿は大きく変貌した。今年3月には陸海空3自衛隊を一元的に指揮する防衛省の常設組織「統合作戦司令部」が発足。台湾有事などを想定し、自衛隊と米軍の一体運用を円滑にする狙いもある。日米同盟強化の取り組みは、まだまだ途上と言えるかもしれない。
流れをたどれば2015年9月19日成立の安全保障関連法に行き着く。当時、反対デモが全国に広がった。いまや、国際情勢は一変し、おおかたの国民世論は「軍拡」の動きを「仕方ない」と受け止めているように見える。
この先、どんな国家像が現れるのか。私たちは想像を働かせるべきだ。
■「他衛」認める転換
安保関連法は、第2次安倍政権下で形になった。
米国など密接な関係の他国が攻撃され、日本が脅かされる事態を「存立危機事態」と定義。要件を満たせば、たとえ日本が直接攻撃を受けていなくても共同で防衛する「集団的自衛権」を行使できるようにした。
その“前段”として政府は14年7月、集団的自衛権の限定行使を認める閣議決定をする。
自衛隊の武力行使は憲法9条の下で基本的に禁じられている。歴代内閣は自衛のための個別的自衛権は可能でも、「他衛」は認められないとしてきた。それを憲法解釈の変更によって容認する大きな転換だった。
安倍晋三首相は内閣法制局の長官人事にまで介入し、閣議決定を急いだ。時の政権が無理、強引なやり方で憲法を読み替える。法の安定性を損ねる点からも反発が集まったのは当然だ。
15年5月、安保関連法案は国会で審議入り。作家の澤地久枝さんらが「アベ政治を許さない」のスローガンを掲げて始めた反対運動はうねりとなる。大学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」を中心に、子連れデモや中年層、高齢者ら世代や地域を超えて参加者が膨らんだ。
法案を巡り、同年9月、参院特別委員会公聴会で意見陳述したシールズのメンバーは「人の生き死ににかかわる法案で、これまで70年間日本が行ってこなかったこと」への危機感を語って廃案を訴えた。「平和主義の歩み」に対し、彼らが抱いた不安をいま一度思い起こしたい。
■「反撃能力」も保有
21年に首相に就いたのは、安保関連法成立当時は外相だった岸田文雄氏。翌22年末に「安保関連3文書」を策定し、自衛目的で他国のミサイル基地を破壊する「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有に踏み出した。1年後には「防衛装備移転三原則」と、その運用指針を改め、輸出の規制を緩和。英国、イタリアと組んで殺傷能力の高い次期戦闘機の共同開発も始めた。
戦後80年のいま、自衛隊が平時に他国の艦艇や航空機を守る「武器等防護」と呼ばれる警護活動は常態化している。同盟国の米国だけでなくオーストラリアや英国も対象に加わった。護衛する艦艇が武装集団から攻撃を受ければ武器使用の判断を迫られる。一方で、運用実態は「特定秘密」を理由に、ほとんど公にされない。
自衛隊の活動範囲が「地球の裏側」にまで及び、他国の紛争に巻き込まれるリスクを忘れてはなるまい。安保法成立時の付帯決議に盛り込まれた自衛隊海外派遣中の常時監視や、事後検証の仕組みを、国会を通じて早期に整えなければならない。
安全保障は暮らしに直結している。一人一人が自分ごととして考える必要がある。