イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザの中心都市、ガザ市の制圧に向けた本格的な地上侵攻作戦を開始した。イスラム組織ハマスを壊滅し、残る20人ほどの人質を奪還する目的という。
ガザ市には依然数十万人の住民がとどまっているとされる。地上戦が進めば犠牲者の増加は避けられない。
2年近い戦闘でガザ側死者は6万5000人を超えた。イスラエルの攻撃は「虐殺」の領域に入っており、これ以上の拡大は許されない。攻撃を即時中止すべきだ。一方のハマスは人質解放に応じる必要がある。深刻な人道危機に一刻も早く終止符を打たねばならない。
イスラエルはガザ市をハマスの「最後の拠点」とみなし、侵攻に踏み切った。ネタニヤフ首相は軍幹部から事前に、作戦が長期化し、人質の命を危険にさらすと警告を受けたが猛進した。背景にはトランプ米政権の容認を取り付けた自信があるようだ。
侵攻直前にイスラエルを訪問したルビオ米国務長官は、作戦に反対する姿勢を示さなかった。短期終結を要求したが、ハマスが徹底抗戦するのは確実だ。犠牲が拡大した場合、責任の一端は米国にもあると認識すべきだ。
国際社会はイスラエルへの批判を強めている。国連は8月、ガザ市で飢饉(ききん)が起きていると認定した。グテレス事務総長は「人災だ」と、ガザ境界の封鎖を非難した。
さらに国連人権理事会の調査委員会は今月、ガザで戦闘が始まった2023年以降、ネタニヤフ氏らがパレスチナ人に対する「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を扇動したと結論付けた。国連が1948年に採択した「ジェノサイド条約」に沿う法的な評価だ。
イスラエルは強く反発する。しかし、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺の教訓から生まれた条約に基づく認定を、重く受け止めなければならない。
イスラエルに圧力をかけるため、パレスチナを国家承認する動きが高まっている。世界では約150カ国が承認済みだ。国連本部で22日に開かれる国際会議ではフランスや英国、カナダなどが正式に承認する見通しという。先進7カ国(G7)の一翼を担う日本にも期待が寄せられていた。
ところが日本政府はきのう、見送る方針を明らかにした。承認によってイスラエルが態度を硬化させ、情勢が悪化しかねないとの理由だが、米国追随の言い訳に過ぎない。石破茂首相が会議を欠席する見通しなのも残念だ。
承認が直ちに事態好転につながる保証はない。ただ見送りは、日本が長年培った中東和平に対する貢献に疑問を呈されかねない。政府はイスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を支持する立場だ。実現には、国際社会と協調し、平和的解決を求める強い意思を示すことが重要ではないか。