石破茂首相の退陣表明に伴う自民党総裁選が告示され、5人が立候補した。全員が1年前も出馬しており既視感のある顔ぶれだが、置かれた状況はかなり異なる。
これまでの総裁選は事実上の首相選びだった。衆参で少数与党に転落した今回は、野党とどのように連携するかが問われている。党勢の回復も視野に入れる必要がある。
自民は解党的出直しを誓ったはずだ。しかし、きのうの所見発表演説会で「政治とカネ」問題に言及した候補はいなかった。党の体質を変えなければ、有権者の不信感は拭えるはずがない。
立候補したのは小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農相の5氏。10月4日に投開票され、国会議員295票と党員・党友による地方票295票の計590票を争う。過半数に達した候補がいない場合、上位2人が決選投票に進む。
前哨戦では、それぞれ日程をずらしながら立候補の意向表明、正式表明、出馬会見と、連日メディアをにぎわせた。ただ前回と比べ、靖国神社参拝や夫婦別姓問題など論争を呼びそうな主張を避けてきた印象がある。
きょうは共同記者会見、あすの東京都内を皮切りに名古屋市、大阪市でも演説会を開く。政策を競う討論会も複数回予定している。
内政、外交に課題が山積する中、骨太の政策論争は欠かせない。同時に、これまでと違う論点が求められる。
連立政権の枠組み拡大か、政策ごとの部分連合か。どの政党に協力を求めるのか。各党がそれぞれ重視する看板政策に対し、賛否を含めた具体的な構想を示す必要がある。約50日間の「石破降ろし」で広がった党内の亀裂にも気を配らないといけない。
派閥裏金事件を含む「政治とカネ」問題を巡り、党は先の参院選総括で「自民不信の底流になっている」と分析、石破氏は退陣表明会見で「最大の心残り」とした。ところが一部候補は裏金関係議員の復権を示唆する。巨額裏金事件の真相解明と、企業・団体献金見直しへの対応に触れぬまま、信頼回復は望めないと肝に銘じるべきだ。
旧派閥は2023年12月に裏金事件の捜査が本格化した後、麻生派を除く5派閥が順次解散した。旧派閥の結束力は低下したものの、今回も各候補が続々と元領袖(りょうしゅう)や麻生派幹部に協力を要請している。
共同通信の全国世論調査によると、石破氏の退陣意向表明までの党内の動きについて派閥や旧派閥の影響力を「感じた」「ある程度感じた」は71%に及んでいる。
各候補は「総括」で敗因として列挙した諸課題に真正面から向き合い、論戦から逃げてはいけない。