米連邦準備制度理事会(FRB)が主要政策金利を0.25%引き下げることを決めた。昨年12月以来6会合ぶりで、第2次トランプ政権発足後は初めてである。
パウエル議長はインフレを警戒し利下げを見送ってきた。しかし雇用の悪化が鮮明になり、景気下支えのため方向転換した。
トランプ大統領が執ように早期の大幅利下げを要求する中での決定だ。パウエル氏が「データ以外は一切考慮しない」と、政治圧力をはね続けたことは評価できる。市場の信認を保つには今後も独立性を堅持し、適時適切な政策を行うことが重要だ。
懸念の高まりは7月分の雇用統計がきっかけだった。景気動向を映す就業者数の伸びが市場予想を下回り、過去のデータも大幅に下方修正された。
トランプ関税による負担増大や景気減速を警戒した企業が、新規採用を抑えている影響が出た。失業率はさらに上昇する見通しも示されている。こうした実情に対応する利下げ再開は妥当な判断と言える。
ただ高関税に伴う物価上昇圧力は根強く、行き過ぎた金融緩和はインフレを再加速させる恐れがある。物価高と経済の停滞が並行するスタグフレーションに陥らないよう注意が必要だ。
パウエル氏は「今回はリスク管理としての利下げ」と説明。大幅な政策転換ではないことをにじませたが、今後も難しいかじ取りを迫られる。
トランプ氏が人事への介入を通じてFRBを支配下に置こうと画策しているのは明らかだ。16日に理事に就任させた側近のミラン氏は、0.5%の大幅な利下げを主張して0.25%の利下げにただ一人反対した。8月には不動産取引の不正を理由に、クック理事を解任させようとする動きもあった。
中央銀行の独立性を踏みにじる露骨な圧力はやむ気配がなく看過できない。パウエル氏は残す8カ月の任期でFRBの結束を保ってほしい。
一方、日銀は先週の金融政策決定会合で、政策金利を現行の0.5%程度で維持すると決めた。利上げ方針は変わらないものの、米関税政策の影響を見極めるためだという。
関税による国内経済への影響は出始めている。米利下げに続き日銀が利上げすれば、日米の金利差が縮小して円高ドル安が進む可能性があり、輸出企業の収益圧迫の要因となる。2026年春闘では、高水準で推移する賃上げの勢いが弱まることも懸念される。
政府や経済界には物価高対応として早期利上げを求める声がある。だが、新政権が積極的な財政出動による経済対策を志向すれば、景気を冷やしかねない追加利上げが難しくなることも考えられる。日銀には複雑な状況を踏まえた的確な判断をしてもらいたい。