社説

[パレスチナ承認]試される世界の「良心」

2025年9月25日 付

 安住の地を求めるユダヤ、土地を失ったパレスチナ双方の争いは「世界史上、最大の難問」とされる。

 1948年のイスラエル建国は、第2次大戦時のナチス・ドイツによるホロコースト(大虐殺)を経たユダヤ人の悲願だった。だがそこに住む約70万人のパレスチナ人が故郷を追われた。占領政策に反発し、独立国家を求めるパレスチナの抵抗の歴史が今に至る。

 2023年10月に始まったパレスチナ自治区ガザでの戦闘はもうすぐ2年。イスラエル軍が多くの市民を巻き込む無差別攻撃の様相を強めても、これまで欧州諸国の態度は及び腰だった。先進7カ国(G7)の英国とカナダ、フランスがパレスチナを初めて国家承認し、イスラエルに圧力をかけたのは人道危機の極みが迫っている証しと言える。停戦につながる潮目にできるか。世界の「良心」が試される。

 ガザを実効支配してきたイスラム組織ハマスのイスラエル急襲が、戦闘の始まりだった。ネタニヤフ政権は報復に乗り出した。激しい攻撃でのガザ側死者は既に6万5000人以上を数える。「民族浄化」のもくろみに突き進んでいると言っても過言ではない。

 国際社会では1993年のパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)以降、イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」の機運が高まった。イスラエルが孤立を深めて先鋭化し、共存の実効性に疑問符がつくからこそ、改めて議論を活性化させようとする試みは評価できる。

 国連本部で今週22日に開かれたパレスチナ問題の国際会議で、世界の指導者はイスラエルのガザ侵攻に「ノー」を突き付け、前後して欧州主要国のパレスチナ国家承認が相次いだ。承認した国は国連加盟国(193カ国)の8割を超える約160カ国となった。

 しかしイスラエルと、後ろ盾の米国は会議に参加せず、承認を表明した国に反発した。トランプ米大統領は23日の国連総会演説で、国家承認はハマスの「報奨」になるとして反対した。

 米国は、国連安全保障理事会(15カ国)がガザの停戦や、ガザへの支援物資搬入の制限解除をイスラエルに求める決議案などの採決でもたびたび拒否権を使い、否決している。イスラエルへの批判が高まるのと対照的に、米国は擁護する姿勢を崩さない。他国との溝は深まっている。

 日本は平和主義と手厚い援助や経済協力により、地域で一目置かれる存在だ。国家承認への判断も注目が集まった。失望の声が上がるのは見越していたはずだが、今回は見送った。「米国が承認していない事実」の前に、慎重にならざるを得なかったのか。毅然(きぜん)とした態度で米国の背中を押し、イスラエルへの影響力を発揮させる外交的胆力が日本には必要だ。

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