在日米海軍は山口県岩国市の岩国基地で空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)を実施した。激しい騒音をもたらすとして県や市が「容認できない」と反発する中での強行である。
米軍の事前通告時間外にも連日確認された。さらに「土日祝日は除く」としていたのに、祝日の23日にも爆音をとどろかせた。地元軽視も甚だしい。
西之表市沖の馬毛島に自衛隊施設が整備されれば、FCLPが移転する見通しだ。岩国のように地元の声は顧みられず、米軍の都合優先で訓練が展開されるのではないか。不安は膨らむばかりだ。
FCLPは空母艦載機パイロットの練度維持・向上のため、陸上にある滑走路の一部を空母に見立てて離着陸を繰り返す。主に夜間に実施される。
かつて厚木基地(神奈川県)で行われていたが、騒音問題が深刻化して硫黄島(東京都)に移転し、年に1~2回行われてきた。厚木、岩国と三沢(青森県)、横田(東京都)の各基地が悪天候の予備施設に指定されている。
岩国での実施は25年ぶり。17日から25日まであり、夜間の爆音は2時間で100回を超えることもあった。基地から約1キロ地点に住む住民は、自宅は防音工事済みだが「雷のような音を子どもが怖がる」と疲れた様子を見せた。日常生活への影響は深刻だ。
日本の防衛や米国の抑止力強化のため「重要な意義がある」(林芳正官房長官)との見解は理解できる。だからといって地元の頭越しで「やむを得ない」(同)と容認した政府の姿勢には疑問を抱かざるを得ない。日米地位協定に米軍の訓練を制限する規定がないことが背景にある。
岩国市の福田良彦市長は2024年に岩国への米海軍輸送機CMV22オスプレイの国内初配備を容認。防衛省と米軍の政策に理解を示してきた。今回の強行は、基地との共存を重視する動きにも逆行する形だ。
今回、岩国が使用されたのは硫黄島で噴火が確認されたためだ。視界不良で訓練に影響が出る、という。
馬毛島の滑走路工事は遅れている。完成は早くても30年3月末となる。硫黄島の火山活動は収まる気配がなく、岩国では訓練の常態化を懸念する声が上がる。米軍、国は地元への説明を尽くさなければならない。
馬毛島で予定するFCLPは午前11時から翌日の午前3時、年間約4800回の飛行を想定する。自衛隊基地の運用が始まればFCLPに加えて、自衛隊の戦闘機も訓練する。
馬毛島と種子島間は約12キロの距離がある。静かに暮らす種子島の人々にとって耐えられる音なのだろうか。岩国基地の周辺では政策の既成事実化が強まることによる諦めや慣れ、反対への疲れがにじむ。人ごとではない。