社説

[九州FG10年]南九州への視点重視を

2025年9月28日 付

 鹿児島銀行(鹿児島市)と肥後銀行(熊本市)の経営統合により発足した九州フィナンシャルグループ(九州FG、熊本市)は10月で10周年を迎える。経営が安定したトップ地方銀行同士の統合は異例で、人口減少に伴う市場縮小を見越した思い切った戦略だと評された。

 当時の総資産は8兆8000億円。福岡銀行などを傘下に持つふくおかフィナンシャルグループに次ぐ九州第2の地銀グループとなった。現在の総資産は13兆円。両行が目指す「統合による経営基盤の強化」に向け着実に成果を上げているようにみえる。

 両行は共同で持ち株会社・九州FGをつくり、その子会社として鹿銀、肥後銀をはじめ23社を傘下に置く。金融業務は各行の独自性を尊重し地域密着を続けてきた。鹿銀の郡山明久頭取は「顧客に関わる部分は意識して変えていない」と説明する。

 グループ全体の経営戦略や子会社の業績管理を主な業務とする九州FGが注力したのは、2018年の証券会社開業だ。銀行では扱えない株式や金融商品の提案ができ、他の証券会社へ流れていた顧客を取り込めるようになった。預金や融資に加え、資産運用までカバーする態勢を整えた。顧客の利便性も向上したといえる。

 統合から半年後の16年春には九州FGへの出向を含む両行の人事交流が始まった。走りながら考えるスピード重視の鹿銀に対し、肥後銀は考え抜いてから動く慎重な“行風”で知られる。顧客の困りごとや地域の課題に合わせながら、互いのいい面を採用し、解決に導いてもらいたい。

 この10年の間、熊本地震や新型コロナウイルス禍と想定外の出来事に見舞われた。「良くも悪くも変化は感じない」という鹿銀の取引事業者の言葉からは、統合による安定した経営基盤に対する信頼がうかがえる。

 ただ、地域全体の経済活性化にこそ九州FGが存在する真の意義はあるはずだ。

 熊本は半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)進出で活況にある。九州経済調査協会の推計によると、TSMCを中心とする半導体関連設備投資の九州・山口・沖縄での経済波及効果は21年からの10年間で23兆円。県別では熊本が13兆円と全体の6割に迫り独り勝ちの様相だ。鹿児島は9000億円で、1兆円の宮崎より恩恵が薄い。

 人も資材も熊本に集中しているとの声を聞くようになって久しい。九州FGは鹿児島を含む南九州の振興という視点から、人口減を補う新たな価値や事業の創出・支援にこれまで以上に力を尽くしてほしい。数字だけで判断するのではなく、地域の事業者が持つ可能性を見いだし支えるけん引役としての期待は大きい。

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