社説

[75歳医療費上げ]制度維持へ議論進めて

2025年10月1日 付

 後期高齢者(75歳以上)のうち、外来医療費の窓口負担2割の人が医療機関窓口で支払う額がきょうから上がる。政府による3年間の負担軽減措置が先月末で終了した。
 75歳以上の医療費は窓口負担を除いた給付費(2024年度で約18兆円)の4割を、現役世代が支払う公的医療保険料からの「支援金」で賄っている。だが現役世代の負担は限界に達しつつある。高齢者に一定の痛みを求めるのが政策の狙いだ。
 反発もあろうが、制度の維持に向け、政府は逃げずにあらゆる角度から議論を進めなければならない。国民が納得できる将来像をどう描くか。改革はまだまだ途上だ。
 75歳以上の医療費窓口負担は原則1割で、「現役並み所得」がある一部の人は3割だった。22年10月に制度を改正し、一定以上所得がある人を対象に2割の枠が新設された。
 線引きとなる所得基準は年金収入のモデルで年間200万円以上。激変緩和の軽減措置が終わり、厚生労働省の推計では、310万人に平均で年間約9000円の負担増が生じることになる。
 75歳以上の窓口負担についてはさらに増やす検討も始まっている。なぜ必要なのか。年金生活者への暮らしの目配りはされるのか。説明を尽くしながら政策を打ち出してほしい。
 政府が手をつけようとしているのは窓口負担3割の人の範囲拡大だ。対象となる現役並み所得がある人(単身で年収約383万円以上)の判断基準見直しの可否を、28年度までに協議する。23年末に決めた社会保障の歳出改革工程表にも盛り込んだ。
 だが自民党は昨年の衆院選、今年の参院選でも負担増はあえて前面に打ち出していない。シルバー票を逃すまいと口を濁す意図が透ける。全ての世代が支え合う「持続可能な全世代型社会保障」を掲げるなら、しっかり言及するのが与党の責任と自覚するべきだ。
 一方、国民民主党は75歳以上の窓口負担原則1割を負担能力に応じて2~3割に引き上げることを求め、現役世代から高齢者への「負担付け替え」をあえて強調して戦った。若者に刺さった結果が、議席数の大幅躍進につながった一因と言える。
 自民総裁選で今週末に新総裁が選出されれば、「社会保障を支える重要な財源」として自民が否定的だった消費税減税も、与野党協議の議題に上る可能性がある。目下の物価高に寄与する消費税減税に踏み込むのか。むしろ税率を上げて財源を確保しつつ現役世代の社会保険料を引き下げるか。野党も責任ある議論に加わってほしい。
 世代間対立を招かないよう、社会保障の給付と負担の将来見通しに関する正確な情報を伝える努力が、政府には求められる。

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