社説

[自民総裁選 外交安保]不確実な時代の構想を

2025年10月2日 付

 南西諸島周辺で軍事的圧力を強める中国の動きや北朝鮮とロシアの接近など、日本を取り巻く安全保障環境は一段と厳しくなった。トランプ米大統領の再登場によって米国の信頼が揺らぎ、世界の不確実性も高まっている。

 激動する状況下で日本は外交・安保の戦略をどう展開するか。自民党総裁選の重要な論点だが議論は低調だ。
 5人の候補全員が防衛力強化の必要性を強調し、日米同盟を基軸とする立場も共通する。だが米国依存の姿勢と、防衛費の際限のない膨張を問い直す必要はないのか。抑止力を確保しつつ、世界の平和と安定に貢献するための本腰を入れた構想を求めたい。

 安保関連法の成立から10年が経過し、自衛隊と米軍の一体運用が着々と進んでいる。軍事面の役割だけでなく、防衛費の拡大を余儀なくされているのが日本の現状だ。

 政府は2027年度までの5年間で防衛関連予算を計43兆円と計画し、国内総生産(GDP)比2%とする目標を掲げる。4年目に当たる来年度の予算概算要求は8兆8000億円と過去最大になった。

 ところが同盟国に「応分負担」を求める米政権は今年に入り、GDP比3.5%にまでさらに引き上げる案を提示した。政府内には「増額は避けられない」との意見もある。しかし本来、防衛費は日本の地域・財政事情、自衛隊の装備や人員計画を勘案して独自に決めるものだ。「総額ありき」で進めるのは筋が違う。

 現行方針の約43兆円の財源については、世論の反発を懸念し一部の増税の開始時期が先送りされたままだ。与野党が物価高対策の財源確保を議論する中で防衛費の大幅増を求めるなら、国民の理解を得る十分な説明が必要だ。

 「自国第一」主義を掲げるトランプ政権が、日本の安全保障にどの程度関与するか不透明なのも懸念材料だろう。韓国やオーストラリア、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などの周辺国や同志国との関係を強化することの重要性は増している。

 一方で日本は防衛装備品の輸出を加速させている。地域の緊張を高める恐れがあり、慎重な対応に努めるべきだ。

 中国に対して5候補がそろって「脅威」を指摘する。ただ日中間は経済的な深いつながりがある。東アジア地域の安定のためには抑止力強化と信頼醸成の両立が不可欠だ。対話を重ねて危機管理に結び付けなければならない。

 ウクライナとパレスチナ自治区ガザの戦闘や、米国の高関税政策に対する自由貿易体制の再構築など国際情勢を巡る課題は山積する。日本が独自に果たせる役割を追求し、国益をいかに守るか。首脳外交を担う地位に就くことがほぼ確実な次期総裁には、日本のリーダーとしての力量が問われる。

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