社説

[新体育館計画・県議会論戦不調]県民の関心に応えたか

2025年10月4日 付

 鹿児島県議会9月定例会は、県が鹿児島港本港区(鹿児島市)ドルフィンポート跡地に計画する新総合体育館整備事業を巡り、約9億円に上る設計関連費用の撤回を求める陳情108件を不採択とした。一大事業の設計に向けた手続きは加速する。
 残念だったのは16人が登壇した一般質問で体育館関連の質問はゼロだったことだ。設計関連費用を可決した6月定例会に引き続き注目されたが、論戦は不調に終わった。
 議論が尽くされていないのではないか、との県民の疑問に応えるのは議会の務めだろう。あらためて肝に銘じてもらいたい。
 6月議会では、事業の見直しや推進を求め93件の陳情があった。今回、新規の陳情が100件を超えたのは、異例といえる。
 事業の問題点を解説し陳情を呼びかけるウェブサイトの発起人によると、108件は県内在住者から集まった。6月に陳情が不採択となった県民投票に触れ、議会運営を疑問視する内容は重複していた。ただ、県も認める通り、「県民の関心事」であることの一つの表れだろう。
 最終本会議の採決は自民党と県民連合、公明党、無所属議員1人の賛成多数で不採択となった。不採択の委員会報告に対し、1議員が反対討論した。
 県は設計事業者の選定へ7日に公募案を公告するなど着々と手続きを進める。事業を巡っては県政広報番組などで整備の意義を発信してきたと説明。事業者を選定後に県民の意見を聞く機会を設ける必要があると答弁した。
 そもそも県は3月時点で488億円としていた総事業費について、整備手法の変更を理由に「示せない」とする。「詳細な建設費を出すため」との説明で設計関連予算約9億円が可決された経緯を思い返したい。
 国立劇場(東京都)の建て替え時期が延期されるなど、資材高騰が施設建設に影を落とす事例が各地で相次ぐ。県が進める大規模プロジェクトの実現性に、県議一人一人が真剣に向き合う姿勢が問われる。
 6月議会で自民党の容認派のやじなどで議場がざわつき、緊張感に欠ける光景があったのは象徴的だ。異論に向き合おうとしない雰囲気に、全体が流されるようなことはよもやあるまい。
 老朽化が進む地域振興局の建て替えや職員給与引き上げを迫られ、県財政は厳しさを増す。国内では本格アリーナの整備が相次ぎ、施設間競争が激化する様相だ。
 ドルフィンポート跡地での計画を議会がこのまま追認する形になれば、無責任とのそしりは免れない。県民が理解できる議論が不可欠だ。

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