社説

[自民総裁高市氏]改革の本気度問われる

2025年10月5日 付

 自民党の新総裁に高市早苗前経済安全保障担当相が選ばれた。総裁選挑戦は3度目。5人が立候補した選挙の決選投票で小泉進次郎農相を退けた。

 初の女性首相が誕生する公算が強まった。

 衆参両院での少数与党下だが、15日と見込まれる臨時国会首相指名選挙で首相に選出される見通しだ。野党の足並みがそろわないためである。

 およそ2カ月半に及ぶ国民不在の政争劇に一応の幕引きを迎えた。ただこれで自民が掲げた「解党的出直し」が成ったと見るのは早計だ。

 昨年の衆院選と先の参院選での連敗は有権者が政権与党に値しないと判断した結果である。最大の要因は、党自らが参院選総括で「不信の底流」とした「政治とカネ」の問題だった。

 ところが総裁選では巨額の派閥裏金事件の真相解明は置き去りにされた。高市氏は決着が付いたとの立場だ。これでは国民の不信を拭うことはできまい。

 長く男性優位が続いた自民政治に風穴を開けた高市氏の努力と政治手腕は評価したい。一方で裏金事件の震源の派閥を率いていた、故安倍晋三元首相の路線継承を掲げる政治家である。

 だからこそ浮かぶのは、新たなリーダーは本当に自民を変えることができるかとの問いだ。

■共生の環境整備を

 総裁選後の記者会見で高市氏は裏金関与議員の要職起用を「問題ない」とした。政策をゆがめていると指摘される企業・団体献金についても、見直しに慎重姿勢だ。今後の党役員や閣僚人事で旧安倍派を起用すれば、政治改革の本気度が国民に見透かされると自覚すべきだろう。

 中道保守の岸田・石破両政権が続き、岩盤保守層の支持離れが進んだとの認識が自民内にはある。政界きっての強硬保守派とされる高市氏への支持には、保守票を取り戻す「選挙の顔」にふさわしいとの内向きの論理が働いたのは間違いない。

 実際、高市氏は総裁選で外国人規制の強化を訴えた。外国人が起こした問題かどうか根拠があいまいな主張を展開する場面もあった。排他的風潮が広がる中で社会の分断をいたずらにあおりかねず、首相としての適格性を疑わせる発言である。

 人口減に歯止めはかからない。それでも高市氏が重視する国力を低下させないためには、外国人の労働力は欠かせないはずだ。不法行為の取り締まりは当然としても、共生のための環境整備を怠ってはなるまい。

 首相就任後の靖国神社参拝については「適時適切に判断する」と明言を避けている。参拝しなければ保守層を取り戻せないとの考えは変わらないだろう。ただ軍事的圧力を強める中国の抑止には日韓、日米韓の連携強化が必要だ。安全保障の面からも外交問題に発展するリスクが高い参拝は避けるべきだ。

 高市氏にはほかにも日本の将来を左右する政策課題が待ち受ける。足元の物価高対策に早急に対応すると同時に、経済成長の道筋をどう描くか。急激な少子高齢化の下でいかにして社会保障制度を持続可能にし、将来世代に引き継ぐか。「自国第一」を掲げるトランプ米大統領と経済や防衛で渡り合う外交交渉も増える。いずれにも明確な指針を示さなければならない。

■幅広い合意不可欠

 少数与党下で山積する課題に向き合うには、他党との連携が鍵を握る。高市氏は連立政権の枠組み拡大に意欲を見せる。公約に「首都機能のバックアップ体制構築」を入れたのは、日本維新の会が掲げる「副首都構想」を念頭に置いたと見ていい。経済政策が近い国民民主党も想定されるだろう。

 実現には社会保障など基本政策を一致させることが不可欠だ。連立に至らない場合でも、幅広い合意形成を図る構想力と胆力が求められる。

 経済政策で高市氏はアベノミクスをほうふつさせる「責任ある積極財政」を掲げた。財務省に対し「税収が増えて財政状況も良くなるプラン」を求めたが、デフレ脱却を目指していた安倍政権当時とは経済環境が違う。インフレ圧力の高い現状では、財政拡大が物価高を悪化させかねない点を認識すべきだ。

 当面の所得増を迫る野党は政策遂行に責任を負うことに対する認識を高めなければならない。自民、公明、立憲民主の3党で制度設計に取りかかり、高市氏も推進する「給付付き税額控除」の協議は試金石になる。

 保守的な価値観を持つ高市氏は選択的夫婦別姓には消極的な姿勢だ。ただ国政で新興勢力を含めた多党化が進んでいるのは、国民の多様な価値観を反映していると見ることができる。国民の幅広い信頼が政権運営には欠かせず、首相の責務は多様性を尊重する社会の構築にあると自覚する必要があろう。鹿児島のような地方を活気づける政策推進も期待したい。

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