社説

[自衛隊統合演習]生活圏への広がり懸念 

2025年10月28日 付

 全国で続く過去最大規模の自衛隊統合演習は、鹿児島県内で訓練場として整備されていない民間施設の使用が広がっている。県民の生活圏である空港や港湾、海岸に戦闘機やミサイル部隊が続々と展開している。

 あえて民間地域を使い、実戦により近い訓練とするためだ。有事の際に自衛隊や海上保安庁の利用を想定する「特定利用空港・港湾」に昨年指定された鹿児島空港(霧島市)や鹿児島港(鹿児島市)を含む異例の規模である。

 日常の暮らしの場が、物資の調達や輸送、ミサイル発射を担う軍事拠点となり得ると示している。地元はその実態をつかめず、理解も置き去りのまま、訓練が常態化することを懸念する。

 駐屯地や演習場の外での訓練を、自衛隊は「生地(せいち)訓練」と呼ぶ。訓練場以外の実施は異例とされていたが、南西諸島の活動に力を入れる近年は徳之島や喜界島で相次いでいた。

 陸海空3自衛隊の統合演習は、今月末まで全国各地である。一部に米軍とオーストラリア軍が加わり、計約5万8000人が参加する。今春新設の統合作戦司令部による一元的な指揮機能を試す狙いだ。

 県内では少なくとも約20の訓練が同時並行で進む。14市町村に部隊が展開。離島が戦域となった場合に後方支援を担う本土側では、自衛隊施設から民間の空港・港湾へ弾薬を輸送し、航空機や艦艇に搭載する訓練があった。

 鹿児島空港ではF15戦闘機が離着陸、燃料補給する訓練を初めて行った。鹿児島港で海自のイージス艦にミサイルを搭載したのも国内の民間港で初の訓練だった。

 奄美大島には各地の地対艦ミサイル部隊が参集。海岸に構築される障害物や模擬の地雷原といった景色があちこちに広がる。島内からはもう「驚かなくなった」との声が聞かれる。

 自衛隊は台風や豪雨災害の救助に活躍。人口減少で細る地域にとって部隊誘致の期待も高いのは確かだ。しかし戦闘機やミサイルが行き交う訓練に、攻撃対象とならないか不安も漏れる。

 訓練について自衛隊は「作戦や運用の柔軟性が増す選択肢の一つとして実施している」とする。一方で、地元への影響や軍拡競争を招くリスクについて住民への説明は乏しい。演習に先立って当時の中谷元・防衛相は自衛隊基地を整備中の西之表市馬毛島や海自鹿屋基地を訪れたが、地元首長と会うこともなかった。

 演習のさなかにはタカ派として知られる高市早苗首相が、自維連立政権を発足させた。安倍政権の路線を受け継ぐ高市政権は、米軍との一体化をより重視するとの見方がある。「台湾有事」への懸念を理由に、自衛隊の活動や日米の訓練が際限なく広がる可能性は否定できず、見過ごせない。

日間ランキング >