社説

[日米首脳会談]外交の自律性欠かせぬ

2025年10月29日 付

 高市早苗首相が就任から1週間で外交の大舞台に臨んだ。来日したトランプ米大統領ときのう、対面で初会談。日米同盟の重要性を改めて確認した。

 安倍晋三元首相と親しくつきあったトランプ氏と、安倍路線を継承する高市氏。初顔合わせは安倍氏を互いに懐かしむ言葉で始まり、個人的な信頼関係構築への一歩を踏み出した。

 日米同盟強化に異論はない。ただ同時に日本はアジア・太平洋の同志国と連携し、中国に対しても安保と経済双方の利害に向き合う戦略が必要だ。米国に従うだけではない自律的な外交こそが、真の国益にかなう道だろう。

 1月に発足した第2次トランプ政権は「米国第一主義」と「取引」を掲げる政策運営を強める。内向き志向が目立つ施策は、戦後の自由で開かれた国際秩序を大きく揺るがしている。

 「米国を再び偉大に」と訴えるトランプ氏にどう応えるか。高市政権にとっての最重要課題と言っていい。

 今回は台湾海峡の平和と安定の維持をはじめとする安全保障上の課題に加え、石破前政権下で7月に合意した対日関税と対米投資の進捗(しんちょく)を主要テーマに話し合うとみられていた。

 会談後に両首脳が署名したのは、幅広い産業に欠かせないレアアース(希土類)など重要鉱物の供給・確保と、関税合意で約束した5500億ドル(約84兆円)に上る巨額投資の着実な履行に向けた二つの文書。来年11月の中間選挙に向け、トランプ氏が支持者にアピールしやすい貿易や経済での成果を得たかったと想像できる。

 その一方、安保分野での協力については具体的に踏み込まなかった。中国が覇権主義的な動きを強め、北朝鮮は核・ミサイル開発を進める。最前線に位置する日本が防衛費増額に取り組む必要がある、との考えをトランプ氏はこれまで示してきた。要求を見越し、高市氏は首相就任早々、防衛力強化の方針を打ち出した。だが今回、中朝への対応での連携強化にトランプ氏が直接言及しなかった点に注目したい。

 あす30日に韓国での会談を予定する習近平国家主席や、今後の会談に意欲を示す金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記を刺激したくないのか。「自由で開かれたインド太平洋」の推進に向けた日米協力を訴えた高市氏とは対照的だった。

 トランプ政権の包括的なインド太平洋戦略には不明確な部分が多く、対中貿易交渉で取引を先行させて台湾問題で譲歩しかねない、との懸念もくすぶる。日本は米国に「日本の利益とは」を率直に伝えるべきだ。発言力を高めるには、同志国、友好国との強固な関係構築は欠かせまい。

 トランプ氏は北朝鮮による拉致問題に関心を寄せる。被害者家族との面会で、早期解決に向けた取り組みの支援を約束した。進展を期待したい。

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