社説

[モバイル電池]発火防止へ適切使用を

2025年11月4日 付

 モバイルバッテリーなどに使われているリチウムイオン電池の発火や発煙事故が後を絶たない。

 小型のリチウムイオン電池は繰り返し充電できるため、スマートフォン、携帯用扇風機、ワイヤレスイヤホンといった身近な製品に幅広く搭載されている。一方、内部に可燃性の電解液が入っており、熱と衝撃に弱い。高温にさらされる夏場の事故発生が最も多いが、冬場でも暖房器具や電熱ベストなど熱源の近くにあると、発火リスクが高まる。

 環境省は9~12月を「火災防止強化キャンペーン」期間とし、関連する行政や業界団体と連携して周知と啓発を強化している。利用者一人一人がそのリスクを理解し、適切な使用に細心の注意を払いたい。

 消費者庁の推計では、リチウムイオン電池が発火するなどした事故が2020~24年度に約2350件あった。この夏以降、東京のJR山手線、上越新幹線、大阪メトロ御堂筋線などの車両でモバイルバッテリーが発火する事故が相次いだ。

 旅客機での対策は覚えておきたい。国土交通省や航空各社は機内預け入れの荷物に入れることを禁止してきたが、7月から機内に持ち込む場合は荷物棚に入れずに状態が確認できる手元に置くように要請を始めている。

 公共交通機関の運行中に煙や火が出れば運行にも影響が及ぶ。人命に関わる重大な事態にもつながりかねない。充電中に発熱や膨張など異常を感じたらすぐに使用を止めることが肝要だ。

 古くなった製品の処分も課題である。ごみの収集車や処理施設で同電池が原因とみられる出火や発煙は23年度に2万件以上起きた。長い間稼働停止になった施設もあった。通常の家庭ごみと一緒に捨てられることが主な原因とみられる。

 廃棄・回収は自治体のルールに沿って分別するのが一般的だ。ただ見た目がプラスチックの場合が多く、消費者に分別ルールが周知されているとは言い難い。経済産業省は来年度から事業者に、製品回収とリサイクルを義務づける方針だ。官民一体となって実効性を高めてほしい。

 中国のモバイルバッテリーメーカー大手の日本法人が、発火の恐れがあるとして計4製品、約52万台の自主回収を発表した。メーカーや業界団体は、粗悪品を排除するとともに製品の安全性を高める努力が欠かせない。

 モバイルバッテリーは電気用品安全法の規制対象で、安全性を満たしていることを示す「PSEマーク」が表示された製品でなければ販売できない。電子商取引サイト上ではマークがない海外製の製品も出回っている。消費者は購入時にマークが表示されているか、確認を徹底したい。

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