社説

[首相の近隣外交]継続的な対話が重要だ

2025年11月5日 付

 高市早苗首相が、韓国の李在明(イジェミョン)大統領、中国の習近平国家主席と相次いで会談し、いずれも関係構築を進めることで一致した。

 近隣諸国との良好な外交は、北東アジア地域の安定と経済発展のために不可欠だ。タカ派イメージが強い高市氏に両国が警戒する中、初会談で対話の道を開いた点は評価できる。

 とはいえ懸念が解消したわけではない。韓国とは歴史認識の隔たりや島根県・竹島を巡る領土問題があり、中国とは重要鉱物レアアース(希土類)の貿易管理、沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡る課題を抱える。継続的な対話で信頼を構築していくことが重要だ。

 高市氏は就任直前、閣僚時代も行っていた靖国神社の秋季例大祭中の参拝を自重した。日韓関係悪化の懸念が韓国内で出ていると就任会見で韓国の記者から指摘されると「韓国のりは大好き。コスメも使っている」と切り返した。所信表明では中国を「重要な隣国」と位置づけるなど、両国へ“前向きなシグナル”を送り続けた。

 一方、政権維持のためには今後、国内の保守層へのアピールも意識せざるを得ないだろう。総裁選では「竹島の日」式典への閣僚出席に言及した。だが保守強硬路線に突き進むのではなく、近隣諸国と信頼できる関係を築くことが国益であると認識してもらいたい。野党代表当時、厳しい対日批判で支持を集めた李氏が、大統領就任後は「国益中心の実用外交」を掲げる姿もヒントになるはずだ。

 日韓会談では両国が未来志向で安定的に発展する方針を確認した。首脳の頻繁な相互往来「シャトル外交」を積極的に推進していくとし、次回会談を奈良県で開く方向だ。東アジアの安全保障環境の悪化や米政権への対応といった共通の課題を抱える両国が関係改善基調を堅持する意義は大きい。

 習氏との会談では、日中の共通利益を拡大する「戦略的互恵関係」を包括的に推進することを確認した。首相は尖閣諸島を含む東シナ海での中国の海洋進出や人権など多数の懸案を列挙。習氏は歴史・台湾問題の重要性を強調し「新内閣が中国への正しい認識を確立するよう期待する」とけん制した。

 高市氏は「懸案や課題を減らし、理解と協力を増やし、具体的な成果を出したい」と発言。習氏は「首相との意思疎通を維持し、中日関係を正しい軌道に沿って共に発展させたい」と述べた。主張すべきことを主張し合えるつながりは重要だ。両首脳が言行一致で現実路線を貫くことを望む。

 高市氏はおととい、北朝鮮側に首脳会談を打診したとし、拉致問題について「私の代でなんとしても突破口を開きたい」と決意を述べた。解決には2国間だけではなく、米国を含む北東アジアの緊密な連携も力になるはずだ。

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