連載[アナログいいね!鹿児島](3)ロケット基地守るビニールテープ

2020/03/02 03:00
「2分の1オーバーラップ」を実演するJAXAの西田侑加さん
「2分の1オーバーラップ」を実演するJAXAの西田侑加さん
 浜風と打ち寄せる波の音が心地いい。ここは、南種子町の種子島宇宙センター。鹿児島が、いや、日本が誇る「世界一美しいロケット基地」だ。近くの海岸はサーファーの人気スポットにもなっている。50メートルを超える巨大なロケットが光の矢となって宇宙へ放たれる光景は圧巻だが、打ち上げがなくても一度は行ってみたい。

 とは言え、いいことばかりではない。塩分を含んだ海からの風にさらされるため、設備の腐食が早いのだ。ロケットの打ち上げは、小さなミスも許されない。常に万全の状態をキープするには、相当な労力が必要になる。

 しかし、射場を管理する宇宙航空研究開発機構(JAXA)には、とっておきの秘策があるという。日本の宇宙開発をリードするJAXAだ。きっと最先端の科学技術が使われているに違いない。

 「これです」。実際にロケットを打ち上げる射点で、施設管理担当の西田侑加研究開発員が見せてくれたのは黒とグレーのビニールテープ。なるほど、効率よく作業するために目印を付けるのか。

 「違います。足元を見てください。このテープを、ここの配管に、こうやって斜めに、こうぐるぐると、こんな感じで巻いていきます」

 真剣な表情で実演する西田さん。冗談ではなさそうだ。

 太さ1センチほどの配管に2種類のビニールテープを重ね満遍なく巻き付け、塩が付着するのを防ぐ。一度巻けば10年以上はOK。途中、破れたら、その部分だけ巻き直して対応する。

 「テープを半分ずつ重ねながら巻くのがポイントです。私たちは“2分の1オーバーラップ”と呼んでいます」。あえてカタカナを使うのは宇宙開発に携わる者の自負か。いずれにせよ、これも先輩たちが試行錯誤の末に編み出した技術の一つだという。華々しく打ち上げられるロケットの足元で、こんな地味な作業があるとは知らなかった。

 配管の中には地上設備のバルブを調整する窒素ガスが流れている。もしも配管が腐食してガス漏れでもしたら、ロケットに燃料を送り込めなくなる。

 記憶に新しいのが、今年2月に打ち上げられたH2Aロケット41号機。当初、1月末に打ち上げ予定だったが、今回見せてもらったものとは別の配管に小さな穴が見つかり延期になった。そして、この配管にはテープを巻いていなかった。まさに蟻(あり)の一穴。地上設備のメンテナンスがいかに重要か、改めて認識させられた。

 例えるなら、ロケットは飛行機、射場は空港。飛行機が毎日順調に運航している間、空港が果たす役割を意識する人は少ないだろう。打ち上げ成功率98%を誇る日本のロケットも似たようなものか。飛行機はトラブルがあったら引き返せるが、ロケットはそうはいかない。「注目されるのはトラブルがあったときだけ」と、射場関係者の嘆き節が聞こえてくる。

 取材を終え引き揚げる際、野ざらしになった射場の鉄柵を見つけた。触るとポキンと折れそうなほど、さびで赤茶けている。潮風は目に見えないが、その威力はすさまじい。種子島から打ち上げが始まり半世紀。その歴史はJAXA職員の塩害との戦いでもある、といったらオーバーだろうか。(高味潤也)

鹿児島のニュース(最新15件) >

日間ランキング >