三太郎峠を通る市道「三太郎線」の入り口。注意を呼び掛ける減速帯が設置されている=奄美市住用
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」が世界自然遺産に登録される見通しとなった。奄美では新型コロナウイルス収束後、観光客の急増が予想される。しかし、国の特別天然記念物アマミノクロウサギが車にひかれる被害は増え、希少種の保護と観光の両立は大きな課題だ。「やるべきことはたくさんある」。保護活動を続ける住民は対策の強化を訴える。
4月下旬、奄美市の三太郎峠。車でゆっくり進むと、アマミノクロウサギやアマミハナサキガエルが路上に現れた。奄美大島と徳之島でしか見ることができない絶滅危惧種だ。
人気の観察スポットは通行車両の増加で、動物がひかれたり、追い越しによる利用者同士のトラブルが起きたりしている。頻繁に訪れている元環境省職員の木元侑菜さん(30)は事故死した動物を何度も目にしている。「人の生活圏近くで多くの絶滅危惧種が見られるのは貴重。大切に守ってほしい」と話す。
2020年のクロウサギの交通事故死は奄美大島で最多の50件、徳之島は2番目に多い16件に上った。希少種を捕食する外来種マングースの駆除が奏功した分、生息域が広がったのが要因とされる。
「登録」を勧告した国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関は希少種を事故から守る取り組みの強化を要請した。
環境省は三太郎峠で、車の通行を規制する実証実験を昨年冬と今年の大型連休に実施した。夏ごろの車両規制試行を目指す。同省奄美群島国立公園管理事務所の阿部愼太郎所長は諮問機関の要請に「重要な案件だと再認識した。自治体と連携して取り組みを強めたい」と気を引き締める。
諮問機関は、希少種が息づく森の適正利用も引き続き求めた。環境省は三太郎峠と並ぶ人気スポットの金作原国有林で19年2月、認定ガイドの同行を推奨し、通行車両も制限した。最重要エリアの湯湾岳山頂は、立ち入り制限を目指している。
外来種対策も重要な課題だ。野生化した猫(ノネコ)の捕獲数は効率的な捕獲手法が確立できず、エリアを広げても伸び悩んでいる。野生化したヤギの目撃例も急増し、希少植物の食害が懸念されている。山中での生息調査は手つかずで、本年度初めて着手する。
「本来なら登録時に万全の態勢であるべきなのに、まだまだ課題がたくさんある」。環境保護活動を続けるNPO法人「徳之島虹の会」の美延睦美事務局長は強調する。ガイド育成、密猟対策、環境保全への意識向上…。「勧告を機に、一人一人が世界遺産の重みを自覚すべきだ。万歳して喜ぶのは早い」