緩衝地帯に組み入れられた嘉徳海岸=10日、瀬戸内町嘉徳
「奄美・沖縄」の世界自然遺産登録に向け、環境省が瀬戸内町嘉徳の河川や海岸を含む集落一帯を推薦区域保護のための「緩衝地帯」に新たに編入していたことが12日分かった。登録を勧告した国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関が2019年の現地調査で人工物の少ない嘉徳川と海岸を一体的に保全するよう指摘したため。海岸は県が護岸工事を計画しており、反対する住民らは「工事が本当に必要か再考すべきだ」としている。
諮問機関が5月の勧告時に出した評価書の全文が4日発表され判明した。環境省は登録審査が終わっていないとして、これまで緩衝地帯にしたことを公表しておらず、編入時期も「答えられない」としている。
嘉徳海岸は14年の台風で砂浜が浸食され、県は総事業費約5億3000万円をかけ護岸工事を計画。環境への影響を懸念する一部住民の声を受け、17年度に規模、工法を見直し、事業費を3億4000万円に縮小した。ウミガメの産卵などを理由に海岸部は着工していないが、近隣の敷地で護岸ブロックを建設しており、23年度の完成を目指している。
反対する住民らは19年に「砂浜は回復傾向にあり、費用対効果のない護岸工事は不要」として工事の公金差し止めを求め、県を提訴した。
諮問機関は評価書で嘉徳川を「奄美大島で人工物がない唯一の河川」と評価し、県と住民が裁判で争っていることにも言及。賛否は示さなかったものの、工事後もモニタリングを続けるという日本側の意向を記載した。
嘉徳一帯は国立公園内にある。ただ、規制の最も弱い「普通地域」のため、緩衝地帯になっても県に届け出をすれば開発ができる。
県河川課は普通地域を根拠に、「工事に規制がかかるとは認識しておらず、中止する考えはない」としている。
原告弁護団長の籠橋隆明氏(64)は「緩衝地帯への編入は嘉徳の価値が認められた証し。一体化している河川と海岸は切り離すことはできない。県は世界遺産にふさわしい海岸政策を考えてほしい」と訴えた。
緩衝地帯
推薦区域の周囲に設定するエリア。人為的活動の影響が推薦区域に直接及ばないよう開発行為などを規制して、推薦区域を効果的に保全する目的がある。一般的に国立公園の「第2種特別地域」に該当する場合が多く、第2種内に工作物を建設する場合は環境省の許可が必要になる。国立公園の「普通地域」の場合は届け出をすれば開発ができる。奄美の緩衝地帯は嘉徳地区を含め1万4663ヘクタール。