〈戦後76年 遺骨は語る〉毎年100柱の骨が見つかる沖縄南部。その土砂を辺野古埋め立てに使おうとする政府。「戦没者への冒涜だ」。収集団体の訴えに賛同が広がる

2021/08/15 11:00
今年3月、沖縄県糸満市の山中に国会議員を案内する具志堅隆松さん(中央)。ガマ周辺には旧日本軍の装備品が散らばっていた
今年3月、沖縄県糸満市の山中に国会議員を案内する具志堅隆松さん(中央)。ガマ周辺には旧日本軍の装備品が散らばっていた
 太平洋戦争末期に住民を巻き込む壮絶な地上戦があった沖縄県で、最後の激戦地となった本島南部の土砂を名護市辺野古の米軍基地建設に使う政府計画が持ち上がっている。

 遺骨収集に取り組むボランティア団体「ガマフヤー」(那覇市)は「戦没者への冒涜(ぼうとく)」と批判。日本各地から派遣された将兵の遺骨も埋もれており「沖縄だけの問題ではない」として7月、国が断念するよう働き掛けを求める要請書を全国の議会に送った。

 沖縄では現在も毎年平均100柱ほどの遺骨が見つかる。40年前から遺骨を掘るガマフヤーの具志堅隆松代表(67)は、沖縄戦の実相を物語る「遺骨の声なき叫び」に耳を傾けてほしいと訴える。

 遺骨と一緒に見つかるのが日本軍の手りゅう弾。自決用と推測される。米軍に追い詰められた兵士らの装備は南部へ行くほど減り、南端では肌着のボタンと手りゅう弾だけの場合が大半だ。銃身の長い銃で頭を撃ち抜くため、引き金を引く片方の足だけ軍靴を履いていない遺骨もあった。

 「砲撃などによる粉砕骨が多いのが南部の特徴。風化して採取できない小さな骨は土と同化している」と具志堅さん。15日の全国戦没者追悼式に合わせて上京し、会場近くで遺族らに伝える予定だ。

■広がる賛同

 ガマフヤーに賛同する議会は沖縄県内をはじめ全国に広がりつつある。奈良県は6月定例会で「『物言わぬ』戦没者を2度殺すような人道に反する行為」と断じ、遺骨を含む土砂を使わないよう求める意見書を全会一致で可決。各地の複数の市議会でも同様の意見書が可決された。

 鹿児島でもにわかに動きが出始めた。女性の人権問題に取り組む市民団体「アイ女性会議県本部」は12日、日本遺族会や県遺族連合会に要望書を送った。議長の道免明美さん(71)は「遺骨の入っていない空の箱だけでは死を受け入れられず、今も手掛かりを探す家族もいる」とし、遺族会が率先して声を上げることを期待する。

■尊 厳

 世論が国を動かしたケースもある。海中の遺骨は“水葬”扱いで、原則収集対象外とした従来方針を昨年末に転換。積極的に情報収集し、可能な場合に引き揚げることになった。南洋に出向くダイバーから「遺骨の尊厳が損なわれている」との声が相次いでいた。

 南さつま市坊津町泊の水中写真家安藤徹さん(65)も情報提供者の一人だ。2007年からトラック諸島(現ミクロネシア連邦チューク州)の海に潜り、戦没船を撮影。デッキ上に見せ物のように置かれていた頭蓋骨を目にし、居たたまれなくなった。

 多くの人に現地を知ってほしいと思うようになり、初の個展を三宅美術館(鹿児島市)で開いている。「海底に遺骨を放置したままではけしからんと思う人もいれば、静かに眠らせたいと願う人もいる。考えは人それぞれでいいが、起きた事実を忘れてはいけない」

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