母校・鹿児島大への支援も惜しまなかった稲盛和夫さん。大学理念「進取の精神」のシンボルが残した言葉に今も励まされる。学生も知ってほしい

2022/09/13 11:00
稲盛さんとの対談が掲載された広報紙を手にする前田芳實さん=日置市
稲盛さんとの対談が掲載された広報紙を手にする前田芳實さん=日置市
 京セラやKDDIを創業し、日本航空(JAL)再建に尽力した京セラ名誉会長の稲盛和夫さん=鹿児島市出身=が8月下旬、亡くなった。日本を代表する経済人になってからも鹿児島を愛し、支えた「経営の神様」。薫陶を受けた人々に、心に残る教えや思い出を聞く。

■鹿児島大前学長 前田芳實さん(77)

 稲盛さんとは、鹿児島大学学長に就任した2013年からよくお会いするようになった。さまざまな支援を通じて、教育・研究の発展にご尽力いただいた。母校への思いや愛情が、多大な貢献につながったのではないか。

 国からの交付金が減り続ける状況に危機感を覚え、大学も自己資金を確保し教育・研究を支えようと基金を設立した。稲盛さんはその旗振り役を担ってくれた。お願いすると「それはいいことだ」と快く名誉顧問を引き受けてくれた。

 大学の企画で対談した時は、学生時代のエピソードを柔らかい笑顔と優しい口調で話してくれた。当時は鹿児島市伊敷にあった軍隊の兵舎跡で授業があり、薬師の家からげた履きで通ったそう。お酒を飲んだ後、市電の線路で肩を組んで踊って怒られた失敗談なども包み隠さず披露してくれ、とても身近に感じた。

 実験環境は十分でなかったとのことだったが、「何もない中で一生懸命目の前のことに努力を続ける精神を教わった」と話していた。その精神力が数々の功績を生んだのだろう。

 多大な貢献や功績をたたえ、17年に学内で稲盛さんの立像を建てた。最初は固辞されたが、何度か京都に足を運んで「鹿大のキャンパスから大きく羽ばたかれたことは学校の誇り。像を見る若者の励みや勇気につながる」と、思いを伝えた。最後は晴れやかな表情で了承してくれた。

 大学の理念に「進取の精神」がある。私は卒業式のたびに「進取の精神を持って歩んで」と訴えてきた。そのシンボルが稲盛さんだった。私は77歳になった今も、稲盛さんの言葉に励まされ、新たなことに挑戦している。鹿大生はぜひ著書を読んでほしい。

(連載「故郷への置き土産 私の稲盛和夫伝」より)

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